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いくら酒を飲んでも酔わない人もいれば、たったビール1杯でひどく酔っぱらう人もいる。酒に弱い人は、「体質だから」とあきらめてしまうしかないのか? 「鍛えれば酒に強くなる」の真相に迫る。
だんだんと飲めるようになっていく人と全く飲めない人…その違いは何だろうか (c)Valentina Murabito-123RF
「酒は鍛えれば飲めるようになる」
そんな迷信めいたことを、学生時代に諸先輩方から言われ、半ば無理やりに酒に付き合わされた経験がある方も多いのではないだろうか。筆者はその言葉の通り、飲み会の回数をこなすうちに飲めるようになったくちだが、一方で毎回、飲酒に伴う不快を繰り返すだけで全く強くならない人もいる。
このように、酒に強い人・弱い人は何で決まるのか、肝臓専門医で自治医科大学付属さいたま医療センター消化器科の浅部伸一先生に話をうかがってみた。
■遺伝によって決まる酒の強さ
酒に強くなれるかどうかはズバリ、遺伝子によって決められているという。「酒を飲んだ際に不快な症状を起こす犯人は、アルコールを分解した時にできるアセトアルデヒドです。このアセトアルデヒドを分解する役割を担うのが『アセトアルデヒド脱水素酵素』ですが、その活性は、遺伝子の組み合わせによって決まっています。“強い遺伝子”を2本持っている人はアセトアルデヒドを速やかに分解できる酒に強いタイプ。“弱い遺伝子”が2本ある人は、アセトアルデヒドがどんどん蓄積していく酒に弱いタイプ」(浅部先生)
遺伝から見れば酒に強くなるのか、弱いままなのかはシンプルだ。酒に強い両親のもとに生まれた子どもは「ざる」と呼ばれる酒豪に、逆に両親ともに酒が弱い場合は下戸(げこ)となる。
「強くなるかどうかの割合は人種によって違っていて、白人や黒人はほぼ100%が酒豪になれる遺伝子の組み合わせです。日本人を含む黄色人種では、酒豪が50%、下戸が5%、そして残りが強くなれる可能性があるタイプです」と浅部先生は続ける。
面白いことに、「“強い遺伝子”と“弱い遺伝子”をそれぞれ持つ人は、ほどほどに飲めそうな感じがしますが、初めは限りなく下戸に近い状態。しかし、飲酒の機会が増えることで、強さが増していくタイプです」(浅部先生)。“強い遺伝子”を持っているにもかかわらず、「自分は飲めないタイプだ」と勘違いしている人も少なくないのだという。
自分の酒の強さを知るには?
(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センターの樋口進先生が考案したパッチテスト)
参考までに、遺伝子の組み合わせについて簡単に調べる方法を紹介しよう。用意するのは絆創膏(ばんそうこう)と消毒用アルコール(70%)の2つ。
(1)絆創膏のガーゼに消毒用アルコールを2~3滴染み込ませる。
(2)(1)の絆創膏を二の腕の内側に貼り、7分間そのままにしておく。
(3)絆創膏をはがし、5秒以内にガーゼが当たっていた部分の肌の色をチェックする。
(4)さらに10分後、もう一度肌の色をチェックする。
(3)でも(4)でもガーゼが当たっていた皮膚の色が変わっていない人は“強い遺伝子”を2つ持つ酒豪タイプ。(3)の時点で赤くなっている人は下戸タイプ。(3)では変化は見られないが、(4)で赤くなっていた人は強くなれるタイプと判断できるのだそうだ。
■薬の代謝に関わる酵素を鍛えると酒に強くなる
「アセトアルデヒド脱水素酵素は、アルコール代謝を繰り返すうちにその活性が徐々に高まっていきます。さらにもう一つ、アルコール代謝を担うチトクロームP450(以下、CYP3A4)という酵素も、同じく活性が上がります」(浅部先生)
CYP3A4は主に、薬物の代謝を行っており、肝臓に多く存在する。CYP3A4の活性が上がると、酒の量が増えても不調が表れにくくなるだけではでなく、酒を飲むと顔がすぐ赤くなる人は赤くなりにくくなる。残念ながら、CYP3A4の活性を数値化して確かめることはできないが、以前よりも酒に強くなった実感があれば、CYP3A4のおかげかもしれない。
ただし、酒を飲まない生活が続くと、どちらの酵素も活性が下がってしまい、少量の酒でも酔っぱらってしまう。“強くなる可能性があるタイプ”の浅部先生は、アセトアルデヒド脱水素酵素もCYP3A4も十分に活性が高まっている状態で、試しに1カ月酒を飲まずにいたところ、禁酒明けにてきめんに酒に弱くなっていた経験があるという。
「アセトアルデヒド脱水素酵素の活性は個人差が大きく、無理に“鍛えよう”などと思ってはいけない」と浅部先生は忠告する。また、「アルコール依存症に陥りやすいのは全体の50%に当たる『酒豪』ではなく、45%の『強くなる可能性があるタイプ』」だという。日々飲み続けていると、「自分は酒に強い」と勘違いしてしまいがち。次第に酒量が増え、最悪の場合、アルコール依存症になってしまう。ここまでいくと、酒に強くなるどころか、専門家の手助けが必要となる。
酒に強くなっても、病気になってしまっては意味がない。無理をせず、その日の自分の体調と相談しながら、二日酔いにならない程度の酒量を守ること。これこそが細く、長く、酒飲みライフを楽しむコツである。
CYP3A4を鍛えると薬の効きが悪くなることがある
酒の強さを左右するCYP3A4だが、活性化させることによるデメリットがあることを忘れてはならない。
CYP3A4の活性が上がると、有効成分の代謝スピードが変わってしまい、本来期待される効果が表れなくなることがある。
効果が下がってしまうものはCYP3A4で代謝される、降圧剤のカルシウム拮抗薬(アダラートなど)、ベンゾジアゼピン系睡眠薬(ハルシオンなど)のほか、血栓予防薬のワーファリン、高コレステロール血症治療薬のスタチンなどだ。定期的にこれらの薬を飲んでいる人はくれぐれも注意が必要だ。
(葉石かおり=エッセイスト・酒ジャーナリスト)
Profile:浅部伸一(あさべ しんいち)
自治医科大学付属さいたま医療センター消化器科講師
1990年、東京大学医学部卒業後、東京大学付属病院、虎の門病院消化器科等に勤務。国立がんセンター研究所で主に肝炎ウイルス研究に従事し、自治医科大学勤務を経て、アメリカ・サンディエゴのスクリプス研究所に肝炎免疫研究のため留学。帰国後、2010年より自治医科大学付属さいたま医療センター消化器科に勤務する。専門は肝臓病学、ウイルス学。好きな飲料は、ワイン、日本酒、ビール。
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お正月といえば、古里で食べるお雑煮は楽しみの1つだ。濃厚でインパクトのあるナゴヤめしや、「豪華で派手好き」といったイメージで知られる愛知県だが、雑煮は例外のようだ。おなじみの味噌は使わず、具は餅と葉物野菜、かつお節が伝統のレシピだとか。「日本一シンプル」とされるお雑煮の背景には、質素倹約の武家社会の名残や験担ぎなど、様々な由来が浮かび上がってくる。
名古屋の雑煮の具は餅と菜っ葉だけ。かつお節をかけて食べる(愛知県長久手市)
かつお節をたっぷり使っただしを鍋に張り、塩やしょうゆを加えて味を調整。一口大に切った葉物野菜「真菜」を鍋底に敷き詰めるように沈め、上から焼いていない角餅を置いて煮る。餅が軟らかくなったところで器に盛りつけ、かつお節を散らして出来上がり。長久手市で市民向けの料理教室を開く喫茶店「茶和話」の店主、斎藤恵子さん(46)に実演してもらった、愛知伝統の雑煮の作り方だ。
料理教室を全国展開するベターホーム協会は、ほぼ同じ作り方の「名古屋雑煮」のレシピを持ち、受講者の主婦らに紹介していたこともある。協会が発行するレシピ本では、もち菜を小松菜で代用するなどして他地域の人にも作りやすくした「名古屋風雑煮」を掲載している。
同協会名古屋事務局の平野涼子さんは「ここまで材料が少なく、作り方も簡単なお雑煮は珍しい。名古屋のお雑煮は日本一シンプルと言えそうです」と話す。
だし汁に真菜と餅を入れて煮る
味噌カツや味噌煮込みうどんなど、ナゴヤめしの味付けに幅広く使われる八丁味噌も、なぜか雑煮では一切使わない。だが、透き通ったすまし汁と餅にからんだ菜っ葉のしゃきしゃきとした食感は、いくら食べても飽きがこない。
「由来はよく分かりませんが、このあたりでは、雑煮は昔から『真菜と餅』と決まっています」と斎藤さん。来月には住民を集め、各地の雑煮を作って食べ比べるといい、「他県から移り住んできた人にも、愛知の雑煮を広めていきたい」と張り切る。
餅の他に鶏肉やにんじん、なるとなどを入れる関東風や、白味噌仕立ての関西風と比べ、愛知の雑煮のシンプルさは際立っている。
シンプルさが際立っている名古屋の雑煮(愛知県長久手市)
愛知の郷土食に詳しい名古屋学芸大名誉教授の三浦正人さん(79)によると、江戸時代に尾張藩主の徳川宗春が、豪華な食事を将軍・徳川吉宗から叱られたのがきっかけという説があるという。他にも「餅と一緒に菜(名)を上げる」など、縁起担ぎに引っかけた説があるが、「いずれも明確な根拠は無いようです」(三浦さん)
これほど簡素な理由は分かっていないが、愛知の食文化を研究している東海学園大の安田文吉教授は「餅そのもののおいしさを楽しむため、こうした形になったのではないか」とみる。
古里で愛知伝統のお雑煮に舌鼓を打ちつつ、お雑煮の歴史に思いをはせてみるのもいいかもしれない。
◇ ◇
収穫される真菜(愛知県長久手市)
「日本一シンプル」なお雑煮の主役を飾るのは、「真菜」や「大高菜」と呼ばれる愛知伝統の菜っ葉だ。
真菜は、小松菜と同じアブラナ科の植物。長久手市産業緑地課によると、古くから農家が自分たちで食べるために栽培してきたといい、いまも数軒が作り続けている。愛知県内の直売所などに真菜を出荷している「Taskファーム長久手農場」の朝原工さん(66)は「味と匂いにクセがない野菜。大みそか前の数日間だけ売れていく」と話す。
出荷される真菜(愛知県長久手市)
市は、市民に真菜に親しんでもらおうと、2008年から農家の協力を得て、真菜の種を市役所で配布。学校給食でも年1回、真菜を使ったおひたしなどを提供している。
現在栽培されている真菜は農家ごとに葉や茎の色にばらつきがあるため、市は農家から提供を受けた種を選抜して本来の姿に近づけていく。産業緑地課の成瀬守主幹は「知名度は低いけれど、シンプルな雑煮に欠かせない野菜。長久手の文化として残していきたい」と意気込む。
長久手市役所産業緑地課の前に置かれている真菜の種
名古屋市緑区でも、雑煮などに使われる「大高菜」が作られている。文献などによると、遅くとも江戸時代末期から栽培されているという。県の伝統野菜にも選ばれているが、茎が折れやすく取り扱いが難しいため、スーパーなどの店頭に並ぶことはまれという。
区は09年から区役所で種を配布し、大高菜の展示栽培も実施。ホームページでは栽培方法や雑煮などのレシピも紹介している。担当者は「毎年種を持って行く『リピーター』が徐々に増え、住民への周知も進んでいる。市場に出回るほどではないが、今後もPRを続けていきたい」と鼻息は荒い。
(名古屋支社 文 久永純也、写真 小園雅之)
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