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香川照之、"怪演"俳優の起源と歴史 – あの大和田常務はこうして作られた!

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香川照之、"怪演"俳優の起源と歴史 – あの大和田常務はこうして作られた!

香川照之、"怪演"俳優の起源と歴史 – あの大和田常務はこうして作られた!

 

ドラマ『流星ワゴン』の香川照之が何かとスゴイ。息子が小さかったころの父親、息子と同い年に戻った中年、余命わずかの老人の3つを演じ分けているのだが、いずれも頑固、強引、超亭主関白で、暴言と名言を連発。さながら『日曜劇場』ならぬ『香川照之劇場』を見せつけている。

香川を「カメレオン俳優」と呼ぶ人もいるが、その言葉には違和感がある。演技の引き出しは間違いなく多いのだが、どんな役を演じても「THE 香川照之」という確固たる存在や主張を感じるからだ。だからこそ、”熱演”ではなく”怪演”と称される圧倒的なパフォーマンスが多いのではないか。ここでは印象的な役柄を挙げ、その魅力を探っていく。

○ボコボコにされる日本兵役で覚醒!

二代目市川猿翁と浜木綿子の子らしく、俳優デビューは1989年の大河ドラマ『春日局』と華々しいものだった。しかし、初期の作品で印象深いのは、何と言ってもVシネマ『静かなるドン』。「昼は気の弱い下着会社のサラリーマンで、夜はコワモテの暴力団総長」という二重人格の役柄を1991年~2001年まで12作品にわたって演じていた。当時、鹿島勤監督から「100回NGを出された」ことが語り草になっているように、「サラブレッドで東大文学部卒のインテリ」からの脱却はまさにこのとき。”頭だけでなく、顔のシワから足のつま先まで全身で表現する”現在の演技スタイルが構築されていった。『流星ワゴン』のチンピラっぽい父親役を見ていると、ときどき同作で演じた近藤静也の姿がオーバーラップしてしまう。

そして、さらなる狂気を見せたのが、2000年のカンヌ映画祭で審査員特別グランプリに輝いた『鬼が来た!』。中国人に監禁され、ボコボコに殴られる日本兵・花屋小三郎を演じたのだが、その鬼気迫る演技はリアルを超えて怖かった。実際、「香川の怪演を最初に引き出したのは、中国のへき地で4カ月間行われた撮影だった」という見方をする人も多く、香川自身「俳優人生が変わった」と話していた通り、ターニングポイントになったのは間違いない。

○「病死寸前」の役作りで17キロ減量

2002年の怪演も話題を呼んだ。1つ目は、映画『刑務所の中』で、香川の役柄は婦女暴行の罪を犯した伊笠。目線や小指のわずかな動きにまでこだわった演技で、極端なブランド好きのおぼっちゃんを脱力感たっぷりに演じた。一方、大河ドラマ『利家とまつ』で演じた豊臣秀吉も印象深い。真っ黒な顔と汚れた着物姿、強烈な尾張ことばと奇怪な動きで、秀吉役で有名な竹中直人と同等以上の嫌らしさを体現していた。

その後も多数の作品に出演していたが、私が惹かれたのは2007年の映画『キサラギ』とドラマ・映画『SP』。前者の役柄は、いちごのカチューシャをつけた変人オヤジ「いちご娘」。自殺したマイナーアイドルのストーカーと思いきや、実は生き別れた父親だったという難役だった。後者の役柄は、与党幹事長の伊達國雄。シリーズを通して、総理大臣の座を狙い、さまざまな企みを見せて盛り上げた。

そして、香川の怪演が広く認知されたのは、2009年の映画『カイジ 人生逆転ゲーム』。借金まみれの「クズ」たちを徹底的にいたぶる悪人・利根川幸雄を演じ、このあたりから”顔芸”が炸裂しはじめた。さらに、ドラマ『坂の上の雲』では、結核で病死する正岡子規を演じるために17キロの減量を行い、痛々しいほどの役者魂を見せる。ガリガリの姿で「このままでは死に切れんぞな」と訴えかけるシーンは、トリハダものだった。

その後も、2011年の映画『あしたのジョー』ではハゲで片目眼帯のアル中トレーナー・丹下段平、2012年の映画『鍵泥棒のメソッド』では記憶を失った殺し屋・コンドウ、映画『るろうに剣心』では新型阿片の密売で稼ぐ極悪実業家・武田観柳など、怪演が次々に注目を集める。

○全ての視聴者から嫌われるスゴさ

時系列で見ていくと分かるように、2000年代の後半ごろから香川の怪演を引き出すべく、強烈な悪役のオファーが増えている。そうした悪役ラッシュの中でめぐってきたのが、『半沢直樹』の大和田常務だった。最終回の土下座は、「凄すぎる」と「ほとんどコント」が紙一重の超濃厚演技だったが、裏を返せば「香川以外の人が演じたらコントにしか見えない」という難役だったのではないか。

2000年代前半までの香川は善良な役も多かったため、前述のように”カメレオン俳優”と呼ばれることも多かったが、嫌われ役の多い最近でたとえるなら”カラス俳優”。ここまで「真っ黒に染まり、全ての人から嫌われられる」俳優はレアであり、それは香川が「人間の醜く汚いところを極限まで追求している」からだろう。

悪役を演じていても、「得体の知れない不気味さ」「ドロっとした粘着質」「小ずるく小ざかしい」などディテールが異なるのもスゴイ。主役より目立ってしまうシーンもあるため、「くどい」なんて批判もあるが、そんな声を吹き飛ばす好影響を与えている。事実、『流星ワゴン』でも、香川に呼応するように、西島秀俊の演技は熱を帯びていく一方だ。

香川は出演作が多いため、ここで挙げたのはごく一部に過ぎず、私も全てを見たわけではない。みなさんも未視聴のものは、「どんな演技をしているんだろう?」という好奇心を抱きながら、ぜひ見てほしいと思う。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。

(木村隆志)

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