社会そのほか速
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ある就職活動サイトの2014年の調査では、「出産後も仕事を続けたい」女子学生が、「定年まで働きたい」を含めて7割を超えた(※)。
一方で、「母親が専業主婦で、子育てと仕事を両立するイメージが持てない」「ワーキングマザーになるのは大変そう。自分には無理」と、両立に不安を抱いている女子学生が実は多いと、スリール株式会社の堀江敦子さん(29歳)は語る。
堀江さんが手がけているのは、そんな学生たちが、共働き家庭の子育てをサポートしながら、仕事と家庭生活をリアルに学べる“家庭内インターンシップ”プログラムだ。「ワーク&ライフ インターン」という名称で、2010年から都内近郊で事業展開している。
「子どもを預かるだけのベビーシッターサービスとは違います」と堀江さん。「学生のキャリア教育を目的としていることが特徴なのです」
受け入れ家庭の条件は、2歳~小学3年生の子どもを持つ共働き家庭。登録した学生は、保育士などの有資格者による36時間の研修を受けた後、週に1~2日、学生2人1組で担当する家庭に入り、3時間程度子どもを預かる。
「保育園のお迎えをしたり、一緒に遊んだり勉強を教えたり。学生の企画で誕生日会をすることもあります。お預かり時間終了後は、帰宅した母親、父親と夕食をともにしながら、仕事や子育ての体験談から、就職活動や恋愛の悩み相談まで、幅広く話し合える時間をつくっています」
既存のベビーシッターサービスのような単発利用ではなく、同じ学生が一つの家庭を4か月間担当する継続利用にこだわっている。
「実は事業を開始した当初は、単発利用でした。すると利用家庭のほとんどが月1回程度、本当に困ったときにしか利用せず、それでは子どももなつかず、学生もインターン体験から学べることが少ないことに気づきました。現在は月6回、4か月単位での継続利用を原則とすることで、学生と子ども、両親との信頼関係や絆が深まり、疑似家族のような関係性が築けるようになりました」
ベビーシッターを利用していたときは「ママはいつ帰ってくるの?」と口にしていた子どもが、このプログラムでは「お姉ちゃん、次はいつ遊びにくるの?」に変わったという利用者の声をよく聞くという。
料金は受け入れ家庭が月3万円(交通費込み)をスリールに支払う。スリールから学生には交通費のみを支給し、金銭的報酬はない。その代わり、キャリア勉強会や、全受け入れ家庭と交流できるイベントなどを定期的に開催し、学生が成長を実感できる機会を提供している。
プログラムを開始した2010年から現在までに参加した学生はのべ280人。1割は男子学生だ。受け入れ家庭は述べ70軒で、口コミで増え続け、常に順番待ちの状態だという。
堀江さんはどのようにして、このユニークな事業を思いついたのだろう。
小学生の頃から小さい子どもが好きで、進んで近所の子どもの世話をし、大学時代のアルバイトを含めると100人以上のベビーシッターを経験してきた。大学3年生のとき、女性起業家のもとで長期間、育児のサポートをしたことが、事業の原点となった。
「よく泣くお子さんで、一日中抱っこをしながら片手でミルクを作らなければいけないなど、壮絶な母親体験でした。自分は週数日だからできるけれど、365日一人きりで子育てをしたら、子どもに愛情が注げないときもあるのではないかと思いました。それよりも、保育士さん、祖父母、近所の人など、いろんな大人に100%ずつ愛されるほうが、子どもにとって幸せなのではないかと感じました。社会で子育てをシェアする重要性に気づいたのです」
また、そのとき初めて、将来、仕事と子育てを両立する生活がイメージできたという。「母親が専業主婦だったので、両立する自信がなかったのです。起業家という働き方にも触れることができ、社会への視野が広がりました」
大学卒業後、IT系ベンチャー企業に就職。そこで目にしたのは、ハードに仕事をこなすことが求められる職場で、定時までしか勤務できず評価を落とされるワーキングマザーや、両立を諦めて立ち去る先輩女性の姿だった。
「働きやすい職場環境に変えたいと思い、同期50人に声を掛けました。みんな、いいね!と応援してくれましたが、誰一人一緒に改善しようとはしてくれませんでした。愕然(がくぜん)としました。出産や子育ては他人事ではなく、自分たちの少し先の未来です。少し先の未来のために行動する人を増やさなければ、社会は変わらないと痛感しました」
自分に何ができるのか考え詰めていたときに浮かんだのが、「ワーク&ライフ インターン」の仕組みだった。これまでの経験と思いのすべてが凝縮したこのアイデアを事業化するため、2010年に退職し、同年、スリール株式会社を立ち上げた。
4か月間のインターンが終わると、学生は大きく変化するという。
「例えば子どもと一緒に歩くと、道の歩きにくさに気付くなど、社会への視点が広がります。自分も子どものときにこんなふうに手をかけてもらったのかと、親に感謝できるようになったという学生もいます。また、ワーキングマザーは決してスーパーウーマンではなく、いろんな人の手を借りながら奮闘している。その姿を見て、自分にもできそうだと自信がつき、一般職を希望していた学生が、総合職の営業に志望を変えたケースもあります」
少子化や核家族化が進む中、「世の中には“親になるための教育”が足りない」と堀江さん。今後は、企業や行政と連携して、このモデルを企業や学校、地域にも広げていきたいと語る。
(NPO法人ETIC. 吉楽美奈子)
(※)2014年7月実施マイナビ学生就職モニター調査から。2015年卒業予定の全国大学4年生及び院2年生対象、女子学生576人回答