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大学に所属する女性研究者が仕事と出産、育児などを両立しやすいように、環境を整える動きが進んでいる。
研究活動の補佐役を付けたり、家族と離れて暮らす人に手当を設けたり。特に女性の数が少ない農学や工学分野の研究者を増やそうと、各大学が知恵を絞っている。
東京農工大(東京都小金井市)講師の藤田恭子さん(39)は、生物物理化学が専門。2、7、9歳の3人の子の母親で、同僚が午後8時過ぎまで研究室に残るのを横目に、5時半頃には大学を出て保育園へ向かう。時間に制約がある中、実験や授業の準備、論文の執筆など、作業は膨大だ。
藤田さんを支えるのが、毎週水曜に研究室を訪れる研究支援員だ。論文のリスト作成の手伝いや実験の材料作りといった指示に対応する。「同僚や学生に頼むのは気が引けるような、細かくて時間のかかる作業を定期的に頼めるのはありがたい」と藤田さん。
同大学は2006年、女性研究者支援のための専門部署を設置。そこから、育児や介護などを行う女性研究者に支援員を派遣している。国の補助も受ける。支援員は現在4人。全員が理系の知識を持つ女性で、学内の研究者6人を支える。
支援員制度ができた背景には、国際会議での発表や論文という業績を積み上げてキャリアを築く、研究者特有の事情がある。副学長の宮浦千里さんは「出産、育児で長期に休むことがキャリア形成に影響すると考える女性研究者は多い。彼女らの離職を防ぐ手立てが必要だった」と話す。
女性の積極採用と支援体制の整備により、同大学の工・農学系分野の女性教員は、08年度の21人から15年1月現在で46人に増えた。
総務省のまとめでは、国内の女性研究者は13万600人(14年3月末現在)。過去最多の数字だが、研究者全体に占める女性の割合は15%で、3割以上が女性という欧米諸国より低い。
14年版男女共同参画白書によると、女性研究者が少ない理由について、「家庭と仕事の両立が困難」を挙げた女性が68%で最多。「育児期間後の復帰が困難」(44%)が続いた。
女性研究者の実情に詳しい、独立行政法人科学技術振興機構の山村康子さんは「特に工、農、理学といった自然科学系の分野は研究に実験が伴うため、両立に悩む女性が多い」と話す。研究室を使う実験が大半で、在宅でもできる仕事が少ない上、長期に及ぶ実験も珍しくなく、長時間勤務や休日出勤を求められることなどが影響すると見る。
状況を改善すべく、女性研究者の両立支援に力を入れる動きが目立ってきた。
岩手大(盛岡市)は11年度から、配偶者やパートナーの仕事などの事情で住まいを別にする教員向けに「両住まい手当」を設けた。月2万3000円を原則3年間支給する。対象者は女性研究者が多く、14年度に受給した女性は12人。
副学長の菅原悦子さんは「キャリア形成のために家族を巻き込むことをためらう女性研究者に、大学が支援する姿勢を示したかった」と狙いを説明する。
農学部助教の関まどかさん(31)は「やりたいことを究めてキャリアを積んでいこう」と決め、仙台市で獣医師として働く夫(33)と13年の結婚当初から別居。手当は週1回、互いを行き来する際の交通費に充てる。
山村さんは「女性研究者を支援する動きが広がれば、研究職を目指す女性も増え、次世代の育成にもつながる」と期待を寄せる。
14年版男女共同参画白書によると、女性研究者の約6割は大学などの教育機関に所属する。専門分野別に見ると、薬学・看護学等で51%、人文科学で34%、医学・歯学で26%を女性が占める。一方、農学(20%)、工学(10%)、理学(13%)など、自然科学系分野には少ない。
国の第4期科学技術基本計画(11~15年度)では、自然科学系全体の女性研究者の採用を30%まで高めることを目指す。「研究者の多様性を高め、より優れた研究成果につなげる」(文部科学省人材政策課)のが狙いだ。(野倉早奈恵)