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[写真]宮城県では2番目にシングルマザーが多い石巻市。日和山公園から見た被災エリア(2011年7月撮影)
4年前の東日本大震災によって、被災地のシングルマザーたちは、経済的な問題や精神的サポートの欠如などから悩みを深刻化させています。ひとり親世帯への行政支援としては、児童福祉手当や福祉資金貸付制度などがありますが、被災地では、同じ程度の支援では生活が立ち行かなくなるケースがみられます。精神的にも傷つき、被災による引っ越しで地域との絆も失い、困窮から抜け出す緒が見つからないシングルマザーの現状を聞きました。
行政の助言なく母子手当てもらえず
岩手県沿岸部在住の佐々木陽子さん(28、仮名)の夫(24)は、震災後、急に行方不明になりました。その後、突然現れたと思ったら、離婚を切り出してきました。借金をしていたというのです。結局、別れることになりましたが、離婚後には彼が浮気をしていたことも判明しました。
「元夫と結婚するときに、過去の話はタブーでした。そのため、この先、何かあるのかもしれないと思っていたのですが、本当にあったとは……。でも信じていたんです。この傷は一生消えません」
震災前に家族で住んでいたアパートは津波で全壊しました。離婚もしたため、現在は、実家に住んでいます。3人の子どもがいますが、長女(5)はまだ記憶があり、パパの話題を出すことがあります。長男(2)はパパの顔を覚えていません。離婚時にはお腹にいた次男(1)はパパの存在を知りません。
「子育ての考え方の違いもあって、両親とはよく喧嘩します。なんで世話になっているのに親に反発できるのでしょうと自分でも思うのですが……」
子育ては時代とともに変化します。価値観のズレが生じ、両親との同居以前には感じることがなかった問題に直面しているのです。
陽子さんは母子手当をもらっていません。両親との同一世帯となったためです。世帯分離をしていれば得られたはずですが、行政からのアドバイスはありませんでした。元夫からの養育費も振り込まれません。
「役所は何も教えてくれませんでした。前から兆候があったら相談できたのかもしれない。なんで私だけこんな目にあわなきゃいけないの? 愚痴を言える相手もいない。精神的なサポートでいいから欲しいです」
復興住宅入居なら家賃が負担に
斉藤まなみさん(43、仮名)は、震災前の2007年、息子が3歳になるときに漁師だった夫を船の事故で亡くしました。斉藤さんは現在、保険の外交員をしていますが、震災時は無職で、夫の遺族年金などで生活していました。
地震があったとき、子どもが通う小学校へ向かいました。学校には友人の子もいて、不安そうにしていました。友人が来ないことが心配になったためマンションに向かうと、彼女は腰を抜かして立てない状況でした。そのため、もう一度学校に戻って、彼女の子どもを迎えに行ったのです。
こうした助け合いができるのは、日ごろから近所と助け合いができていたからです。シングルマザーにとって、こうした絆はとても貴重です。いまでも息子は学校から帰宅後、近所の家に直接向かいます。「子どもにとっても自分の祖父母のような存在」といいます。
斉藤さんが住んでいた借家は津波で「全壊」扱いとなり、現在は民間住宅を借り上げた「みなし仮設住宅」に住んでいます。みなし仮設住宅は、県が民間賃貸住宅を借り上げ、一定額の家賃や共益費などを2年間負担する制度です。仮設住宅と同じで、国費と県費でまかなわれ、借り主の負担額は世帯人数や間取り、市町村の家賃相場によって変わります。
斉藤さんは石巻市内に住んでいます が、以前の借家からは離れてしまい、子どもが通う学校も転校を余儀なくされました。地域の絆もまた再構築となったのです。
「当初は友達がなかなかできませんでした。そのため、前の学校の友達と遊んでいたのですが、そのたびに、車で送迎していました」
いまでは学校の友達もでき、小学校5年生になってからは、一人で留守番もできるようになりました。「いまの不安は子どもの学力。なかなか勉強を見てあげることができません」。
中学に進むようになると出費も多くなるため、生活を切り詰め、貯蓄をしています。収入は10~18万円。このうち、交通費と会社の駐車場代が消えます。保険外交員をしていると、客への贈り物なども必要になりますが、それは自己負担です。実収入は額面の半分だとか。今後、「復興災害住宅」に住むようになれば、家賃負担が出てきます。
借家が全壊扱いとなった斉藤さんは、復興災害住宅に入居することが可能です。 家賃は入居者全員の一年間の所得の合計額から、公営住宅法に定める控除額を差し引き、12か月で割って政令月収を算出し、その金額によって家賃区分(収入分位)が決まります。例えば、10万4001円~12万3000円の政令月収の場合、2LDKで2万6600~2万7900円になります。
被災者扱いにならず少ない補助
一方、同じ市内に住むシングルマザーの田中祐美さん(仮名、45)は、付き合っていた男性の浮気が発覚した頃に妊娠が判明し、以来、一人で長女を育て、震災にみまわれました。これまで結婚しなかったのは、「一緒に苦労を共にしたい」と思う人に出会えなかったからだといいます。現在は仕事を病気で休業中の身です。
その田中さんが住んでいるアパートは「床下浸水」でした。そのため、法的には「被災者」扱いされません。被災者と認められれば、仮設住宅への入居や家賃補助、今後整備される復興住宅への入居、見舞金などの金銭的・生活的な補助が受けられますが、田中さんはそれらの支援が受けられないのです。現実的に「床上浸水」(被災者)扱いとなれば、仮設住宅に入居もでき、家賃負担がなくなりますが、「床下」だったため、震災前と同様のアパートに住んでいます。もちろん、家賃を支払いながらです。それらの修復・購入にも費用はかかります。車も津波にのまれたため、新たに購入しました。
経済的に余裕があれば問題ありませんが、休業中の田中さんには重くのしかかっています。
田中さんのケースのような被害について、石巻市は実害はあったものの、被災の程度が高いとは判定しませんでした。田中さんは判断の差について怒りをあらわにします。
「例えば、アパートの一階が全壊か大規模半壊だったとします。すると、2階は実害がないとしても、同じ扱いになります。おかしくないですか?」
田中さんには母子手当と児童手当が入りますが、それだけでは足りません。被災者扱いではないため、義援金ももらえません。 公的な義援金は1円ももらっていないのです。そのため、現在、付き合っている男性からの援助が頼りだといいます。
「震災前」と「震災後」のひとり親で格差
宮城県の調査(2013年度)では、仙台市を除くと、「母子世帯」が最も多いのは石巻市で1939世帯。ついで大崎市が1458世帯。登米市が1045世帯。気仙沼市が739世帯などとなっています。
震災前からのひとり親(一般世帯)と、震災後のひとり親(震災世帯)とで収入格差があります。「震災世帯」の収入は「200~250万円未満」が最も多く14.3%。ついで「250~300万円未満」が11.0%となっています。
それに対し、「一般世帯」は「100~150万円未満」が17.7%がと最も多く、ついで「150~200万円未満」が16.1%となっています。震災世帯であれば、遺族年金や民間の保険などによって経済的に余裕でてきます。しかし、一般世帯の場合、もともと働く条件などで触手が限定されがちです。
このことはアンケートの「困っていること」にも表れています。「一般世帯」は「生活費」が64.4%、次いで「子どもの世話や教育」が26.2%となっています。収入の低い「一般世帯」が経済的な問題に悩んでいる様子が浮かび上がってきます。
一方、「震災世帯」は「子どもの世話や教育」がトップの39.6%で、次は「相談相手」で31.8%。急にひとり親になったことで、「一般世帯」と比べると、相談相手を見つけにくいと思われます。
宮城県では離婚前の相談や、子どもの奨学金、生活費の貸付金など紹介したパンフレットを作成しています。ドメスティックバイオレンスやモラルハラスメントなどにも対応した相談窓口や支援団体も紹介しています。
当事者はなかなか窓口を知らなかったり、出向く時間がなかったりします。金銭的な問題、絆の欠落による寄る辺なさ。これらのパーソナルな問題をどのように支援に結びつけるのかが課題となっています。
(ライター・渋井哲也)
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