イスラム国に日本人が殺害された――。
紛争地域に足を踏み入れれば常に死の危険がつきまとう。しかし、そのリスクを覚悟の上で、取材を続ける人たちがいる。戦場ジャーナリストと呼ばれる記者たちだ。
彼らはなんのためにそこに行くのか? 何を求めて取材し続けるのか? 戦場にかけるその誇りと生き様を聞いた。
■イスラム国の“首都”ラッカはゴミだらけ
“イスラム国”という残虐な“国”に3度も行ってきた経験を持つジャーナリストが常岡浩介氏だ。
―今、メディアに引っ張りだこなんじゃないですか。
「いや、ヒマになってきました。政府批判をするので、テレビで使われなくなってきたんですよ。プロデューサーにも怒られるし」
―今回の人質事件についての感想は?
「後藤健二さんがイスラム国に入る前に、湯川遥菜さんを助けられたんじゃないかと僕は思っています。それが残念で悔しい。
湯川さんが昨年8月にイスラム国に拘束された後、イスラム国から僕に連絡がありました。『湯川さんの裁判をやって、問題がなければ解放する』と言っていたので、『じゃあ10月に行く』と返事をしました。ところが、10月上旬に『私戦予備・陰謀』の疑いで家宅捜索を受けて、行けなくなってしまったんです。
一方、外務省は当初、イスラム戦線を通して、湯川さんを捕虜交換で解放しようとしていた。しかし、イスラム戦線はイスラム国と最も対立している組織だし、捕虜交換も成功したことがなく、うまくいかなかったみたいです。
もし、外交ルートを使うなら、トルコに頼むべきでした。トルコは9月20日に拘束されていた49人の領事館員を交渉で取り戻している。そこに湯川さんをひとり加えることはできたんじゃないかと思っています」
―その後、後藤健二さんも拘束されました。
「後藤さんと湯川さんの脅迫ビデオが公開された時点で絶望的になりました。これまで、殺人予告ビデオが出た後に解放された人はいません。
この時点で限りなく可能性はゼロに近いのですが、少なくとも3ヵ月前なら状況は違っていた。ですから、可能性は低いけれど、僕の持っているイスラム国とのチャンネルを使って交渉をすることはできたはずです。
だから、1月22日に外国特派員協会の会見で『私はイスラム国と交渉ができます』と表明しました。しかし、受け入れてもらえませんでした」
―常岡さんは、これまでに3回イスラム国に入っていますが、内部はどのような状況ですか?
「僕が最初に入ったのは2013年の4月。まだイスラム国ではなく、シリア内で『ヌスラ戦線』と名乗っていたときです。その頃は支配地域といえる場所がほとんどなく、ほかの武装勢力と混在状態でした。すぐ近くにある自由シリア軍の基地と行き来したり、仲よくしているようでした。
2回目が2013年の10月。トルコの国境地帯を支配していた『イラクとシャームのイスラム国(ISIS)』のオマル司令官に接触をして、彼に支配地域を案内してもらい、住民たちを取材させてもらいました。
ISISは、その頃から過激さを増し、ほかのグループから『あいつらとは一緒に戦えない』などと言われていた。ただ、ISISの激しさは地域で差が大きく、僕が取材に入った地域は司令官も地元出身で、穏やかな雰囲気で比較的戦闘が起きていない場所だったので、宣伝の意味もあって受け入れたんだと思います。
3回目は去年の9月。“首都”といわれるラッカに行きました。
ラッカは、ゴミの回収ができていないのか、街がゴミだらけでした。しかし、電気はきちんと通っていた。シリア内で電気が通っている反体制派の街は珍しいんです。それは、彼らが最初に発電所や油田、製油施設などを第一に確保しているから。
ただ、毎週金曜日にラッカの公共広場で、公開処刑が行なわれる。死体がつるされ、生首がさらされる。住民たちは、できることならこの街から脱出したいと思っていたでしょう」
―イスラム国は、原油の密売で利益を得ているといいますが、どうやっているんでしょうか?
「原油をトルコに密売している場所も見ました。石油を詰めたポリタンクをヒモに通して川に浮かべ、人力で受け渡しをしているんです。ものすごい原始的な人海戦術で、ビックリしました。その様子を写真に撮ろうとしたのですが、カメラを向けると止められてしまった」
―素朴な疑問ですが、イスラム国は“国”でしょうか?
「近代の国際法では国家として認められませんが、支配する領域があって、支配される住民がいて、実効支配が行なわれていることを考えると、彼らにとっては“国”でしょう。歴史的・文化人類学的にみれば、これまでこうした条件を満たした組織を国と呼んでいましたから」
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(取材・文/村上隆保 撮影/本多治季)
●常岡浩介(つねおか・こうすけ)
1969年生まれ。94 年長崎放送報道部入社。98年からフリージャーナリストに。2000 年にイスラム教に改宗。チェチェンやロシア、アフガニスタン、パキスタンなどを取材
■週刊プレイボーイ8号(2月9日発売)「それでも戦場ジャーナリストが命をかけて伝えたい真実とは?」より(本誌では戦場ジャーナリスト・広河隆一氏、山路徹氏のインタビューも掲載!)