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国際コラムニスト・加藤嘉一の本誌連載コラム「逆に教えて!」。今回は…。
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米軍がついに地上部隊を中東に派遣し、4、5月にも対ISIS(イスラム国)の地上作戦が開始されそうです。オバマ大統領に〝勝算〟はどこまであるのでしょう。
再び“ドロ沼”へと突き進んでしまうのでしょうか―。
アメリカのオバマ大統領が2月11日、ISIS(アイシス・イスラム国)に対するAUMF(軍事力行使権限承認)を合衆国議会に要請。米軍は中東のイラク、シリアで地上作戦に踏み出すことになります。
この決断について、アメリカの世論には“主論”がありません。オバマ大統領のバランス感覚を評価する声。柔軟性に欠ける判断だと疑問を呈する声。地上作戦に乗りだすのが遅すぎたという批判の声。中東諸国が主導権を握り、アメリカは経済的支援などに徹するべきだと“そもそもの問題”を指摘する声…。様々な声が飛び交っている。
ただ、一般市民の大半は「(イラク、アフガニスタンに続いて)またか」という疲弊(ひへい)感情を抱いているようです。
アシュトン・カーター国防長官は、対ISIS作戦のプロセスについて次のように述べています。
【1】空爆や地上作戦などで、アメリカが自ら現地へコミットする。
【2】ISISを一掃した後に生まれる“権力の空白”に注意する。
【3】米軍を撤退する。
『ワシントン・ポスト』紙は、このうち【3】、つまり「出口戦略」の実現性に疑問を呈していました。イラクやアフガンでも、米軍が現地へ出ていったはいいものの結局、出口戦略の破綻によってドロ沼化してしまったのは周知のとおり。その上、「イラク、シリア両国にまたがる対ISIS作戦の出口戦略は、アフガンやイラクの時よりも難しいだろう」という指摘をする識者が少なくありません。この難題をクリアしない限り、アメリカが望む結末を見ることはないでしょう。
気になるのはオバマ大統領の胸中。仮に「どうせあと2年の任期だから」という安易な気持ちがあるとしたら、とても危険です。
「地上軍派遣は自分の理念とは異なるが、あと2年の間は周囲に媚(こび)を売り、共和党も含めて議会内のバランスをとっていけばいい。作戦が長期化し、出口戦略が困難になっても最後に“ケツを拭く”のは自分ではない」
オバマ大統領の心の片隅にそんな甘えが潜んでいるのではないか―残念なことに、アメリカ政治の中心地ワシントンでは、そうした見方が主流。トップから理念と戦略の一貫性を感じられない政策が、結果的に中東のドロ沼化を加速させてしまうとすれば、悲劇以外の何物でもありません。
ところで、世界中を巻き込むISIS問題に関して、極めて実利的、戦略的に動いている国がアジアにある。そう、不気味な沈黙を見せている中国です。
中国政府は、ISISに対して最小限の非難声明を出したのみで、ほとんどアクションを起こしていません。ムスリムが多く住む新疆(しんきょう)ウイグル自治区を刺激したくないという面もありますが、ある中国政府関係者に言わせれば、他にふたつの理由があるそうです。
【1】ISISという国際問題を引き受けて主導権を担うほどの力を中国は持っていない。
【2】現在のアメリカの政策は非常に不安定だから、そこに安易に関わるのはリスキーである。
上海国際問題研究所という政府系シンクタンクの研究員も、これと同様のことを言っていました。 ここから読み取れることは、まず中国はいまだ超大国ではなく、政府自身もそういう現実を自覚した上で戦略を練っていること。そして、アメリカの中東政策は、中国からも「危なっかしい」と見られているということです。
かつて君臨した“世界の警察”という地位から降りるのか降りないのか、岐路に立つアメリカ合衆国。経済的には世界を席巻しながらも、政治面では決して“世界の警察”を目指そうとしていない中国。これを好対照といわずしてなんと呼ぶのか、逆に教えて!!
●加藤嘉一(KATO YOSHIKAZU)
日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。ハーバード大学フェローを経て、現在はジョンスホプキンス大学高等国際関係大学院客員研究員。最新刊は『たった独りの外交録 中国・アメリカの狭間で、日本人として生きる』(晶文社)。中国のいまと未来を考える「加藤嘉一中国研究会」が活動中!
http://katoyoshikazu.com/china-study-group/