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使い古したトラックの幌(ほろ)、自転車のチューブ、車のシートベルトにエアバッグ。これらを再利用し作られる「フライターグ」のバッグには、店に並ぶ新品でも、薄汚れや経年変化が見て取れる。しかも、決して安くはない。
それでもこのユニークなスイス発ブランドは過去20年余り、先進国を中心にファンを増やし、着実に成長を遂げてきた。ブランドバッグなのに、同じバッグは世界に2つと存在しない。モノがあふれ、モノが売れないとされる時代に、人は何にお金を払うのか。フライターグの挑戦は、現代スイスデザインの革新性を示す好例といえる。
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「僕たちは商品というより物語を売っている」
創業者で同社クリエーティブ・デザイナーでもあるマーカスとダニエルのフライターグ兄弟は昨年9月、東京・渋谷の旗艦店でこう話した。
デザインなどを学んでいた20代前半の兄弟が、アメリカのメッセンジャーバッグを参考に、最初のモデル「F13 TOP CAT」を手作りしたのは1993年のこと。後にニューヨーク近代美術館(MoMA)に収蔵され、いまなお一番人気の型だ。自転車移動に便利なバッグが欲しいと考えた兄弟が、チューリヒの自宅の窓から高速道路を行き交うトラックを見て思いついたのが、幌の再利用。頑丈で防水性に優れ、ポップで遊び心もある。何より、資源を有効活用することで、サステナブル(持続可能)な未来を考えるきっかけになる-コンセプトは明確だった。
自分たちのために作ったストリート感覚あふれるバッグは友人らの要望で広がり、やがて高感度なショップやミュージアムなどで販売。今では従業員約160人を抱え、欧州と日本に旗艦店を構えるほか、オンラインショップで世界中から注文が入る。
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スイス・チューリヒ北部の工場を訪ねると、目に飛び込んでくるのは床に積まれた幌。「5人のバイヤーが欧州各地で買い集めます。幌は青、黄、グレー系が多く、逆にピンクや紫などはレアですね」と広報担当者。
幌は巨大テーブルに広げて不必要な金属部品や傷みの激しい部分を取り除かれ、雨水で2度洗いされた後、色柄や経年別に効率良く分類・保管される。そしてバッグや小物へと形を変えてゆくのだが、「厚みも質感もバラバラの素材をどう使い、柄をどう生かすのか。カットと色合わせは製品づくりの核になる」とフライターグ兄弟。素材が一定でないため機械には通せない。
縫製のみスイス国外で行うが、ほとんどの工程が手作業。洗浄に雨水を使うシステムも「大きな投資で、採算が合うには15年かかる」というが、「僕らの哲学は20年間変わっていない」と兄弟は力を込める。「持続可能なビジネスも大切だが、それ以前に商品とそのプロセスが持続可能であること。環境保護を強調するというより、おしゃれに楽しく資源を活用する“物語”をこれからも紡いでいきたい」(黒沢綾子)
■「スイスデザイン展」(産経新聞社など主催)が17日から、東京オペラシティアートギャラリー(東京都新宿区)で開かれる。知られざるデザイン大国の伝統と革新性を探る。