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中国主導の新たなアジアの投資銀行を巡る米英の論争から学べる教訓がある。最近生じたこの地理経済学と地政学の衝突は今後生じる争いの前触れだ。ポスト冷戦後に世界が直面している難題とは、この世界的に統合された金融経済制度が巨大国同士、とりわけ米国と中国の争いが激化するなかで生き残れるかどうかということだ。現状から判断すると、答えはおそらくノーだ。
AIIB設立記念式典に中国の習近平国家(中央)と記念撮影におさまる関係者や各国代表(2014年10月24日、北京)=ロイター
世界で経済的な影響力を高めようとする中国の企てにどう対処するかを巡り先進国の間で意見が割れていることは、中国が提案したアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立に参加することを英国が一方的に表明した際に明らかになった。この英国の決断に対して米国は、英国が商業的利益を追い求めるあまり中国にこびへつらっていると、いつになく厳しい反応を示した。ただ、英国がこうした行動に出たのはこれが初めてではない。
米英の仲たがいが戦略的メリットまたは中国主導の国際金融機関に欧米が参加することについての活発な議論を行った末のことであれば良かっただろう。中国が世界で影響力を高めたがっているのは疑いようがない。こうした新たな動きは、世界金融の既存ルールを崩壊させてしまうのか、あるいは補うものなのか。欧米諸国はこうした企てに対して拒否権を行使できるのか。AIIBに参加することはボイコットすることよりも賢明な判断だろうか。かつての大国はどの辺りで中国への関与と同国からの防衛のバランスをとるべきなのか。
■英、経済的なご都合主義
こうした議論はなされなかった。英国は戦略地政学的な見積もりよりもむしろ経済的なご都合主義に動かされて判断を行った。米国が憤りを示したのは、注意深い検討のうえでの判断ではあったが、それと同時に官僚の当惑ぶりを示すものだった。これまでは地理経済学が地政学をけん引してきたが、米英のいずれも意思決定の枠組みのなかでその事実をほとんど認識していなかった。政策は今もなお、利己的に決められているのだ。
英国がAIIBへの参加を表明した背景にはジョージ・オズボーン氏の力がある。オズボーン財務相は対中関係で重商主義路線をとっている。米国は英国にとって最も重要な同盟国かもしれないが、英国経済が低迷するなか、同財務相は中国を世界の新たな経済大国と見なす。英政府の目標は中国の特権的なパートナーになることであり、とりわけ、中国が金融サービスの相手国として必ず英国を選んでくれるようにすることだ。
オズボーン氏は影響力のある政治家であるため、戦略地政学的な影響については政府の国家安全保障会議(NSC)で議論されなかった。関係機関に文書が1枚配られただけであり、外交機関は同盟国との相談が十分でなかったことに驚いたという。迅速な判断により、同財務相は財務相会談で中国の財政相に自ら直に良い知らせを伝えることができる。