社会そのほか速
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引っ越しといえば、物件探しから各種手続きまで、面倒なことばかり…と思いきや、なかには好き好んで引っ越しを繰り返す人たちがいるらしい。「住めば都」は、なぜ彼らに通用しないのか。
「家賃は出費のなかで一番のムダ」と話す女性Aさん(29)は、蹴破れそうに薄いドアの向こうから笑顔で迎えてくれた。都内の調布、永福町、森下、菊川、幡ケ谷。ずっと京王線沿線で引っ越しを重ねてきた。
「京王線沿線は栄えすぎてないというか、ちょっと田舎臭がするところがいい。中目黒とかおしゃれなところは、疲れそう」
築40年。外観は、失礼ながら「ボロアパート」。が、古い家のほうが広いし家賃も安いから、と本人は気にしていない。毎月毎月出ていく家賃を最低限に抑えるため、たどりついたのが今の部屋。これまで契約を更新したことがない。更新料なんて、ムダの極み。「引っ越し費用のほうがかかるのでは?」と思うが、引っ越すたびに家賃が低い家を選び、2年住んだら元が取れるようにしてきた。
作業は引っ越し業者に頼むが、費用は2万円台に抑える。コツは、平日に設定し、時間帯を業者の都合に合わせる「時間フリー」で頼むこと。
引っ越しの常連というから、どんなにか荷物が少ないだろう、と興味津々で部屋を訪ねたが、ベッド、テーブル、イス、本棚、机、台所のチェストと一通りの家具がある。いたって普通。そのうえカメラマンなので、撮影機材も多い。それでも引っ越すたび、「断捨離」が進んだ。
もともと捨てるのは苦手だが、今はだいぶうまくなった。初めは断捨離上手な友達に手伝ってもらった。ためこんだ紙袋や着古したTシャツをばっさり捨てられ、シュンとしたのは一瞬。本当に好きなものだけに囲まれる生活になり、すっきりした。
2人目の引っ越し好きは、元自衛官で、キックボクサーの能見浩明さん(30)。親の都合による引っ越しも合わせると、これまで25回は引っ越してきた。
荷物は衣装ケース二つのみ、と聞いて、映画「レオン」を思い出した。鉢植えとトランク一つで、転々とする殺し屋。引っ越し人生のベースができたのは自衛隊にいた頃。ひと部屋3〜16人の共同生活なので、もともと持ち込める荷物が限られる。災害が起きれば2時間後にはザック一つで出発。最低限の物で暮らす生活が染みついた。
衣装ケースの中身は、タオル数枚、バスタオル2枚、下着上下各5枚、パジャマ代わりのスウェットとジャージーの上下、デート用のジャケットとデニム。…