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利用者の使いやすさを突き詰めたデザインで成功したアップルとよく似た日本企業がある。任天堂だ。体重計をゲームに取り込むなど斬新なデザインで一時世界を席巻したが、いまは米アップルに新規顧客を奪われ業績は明暗が分かれている。デザインの陳腐化を防ごうと事業分野と規模を急激に広げ続けたアップルに対し、おもちゃ市場にこだわった任天堂は野心と経営スピードの差で突き放された。
「任天堂にはおもちゃ市場という確固たる足場があった。ゲームセンターから消費者向けへの転換を狙った我々は中途半端だった」
1980年代のゲーム市場をこう振り返るのはノーラン・ブッシュネル氏。ソフト差し替え式の据え置き型ゲーム機のビジネスを世界で初めて成功させた米ゲーム会社、アタリの創業者だ。
■「アタリ」の教訓
アップルを創業するスティーブ・ジョブズ氏を雇っていたアタリ創業者のノーラン・ブッシュネル氏。
実はアタリは、アップルと任天堂に重要な影響を与えている。北米のゲーム業界で後発だった任天堂は、粗悪なソフトの品ぞろえが不評を買ったアタリを明確に「反面教師」とし、社内外のソフト開発に強い統制を加える組織文化を生み出した。85年に北米で発売したNES(日本ではファミリーコンピュータ)は、アタリに勝ちゲーム業界の世界標準を勝ち取った。
それでもアタリは業務用が主流だったシリコンバレーのIT(情報技術)企業が消費者向けにデザインを洗練させていく先駆けだった。後に、アタリで学んだ画面デザインやビジネスモデルを個人向けパソコンに応用し、スティーブ・ジョブズ氏らがアップルを創業する。
アタリの影響を大きく受けた両社は小型ゲーム機と、小型パソコンという1970年代後半から勃興した二つの個人向けの巨大な家電製品の市場ですみ分け、トップのブランドを築き上げた。その源泉となったのがデザインで経営する事業モデルだ。
工業デザイナーが経営に参画し、開発や人事でマーケティングや調達の部門よりも大きな権限を持つ。中央研究所を持たず、基本的な技術開発は部品メーカーに頼る。生産は中国の委託先に任せ、付加価値の高いデザインに集中する。使いやすいデザインを突き詰めるため、開発時にまず他社をはるかにしのぐ膨大な量の試作品をつくり、絞り込む開発手法まで同じだ。両社ともIT機器の入力方法に革命を起こしたタッチパネルに早くから目をつけた。
2000年代後半までは両社はパソコンとゲームで市場をすみ分けていた。世界標準を握った任天堂はソフト会社に強い影響力を発揮できていたからだ。
ではなぜ両社は今明暗を分けているのか。