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テレビ東京が好調だ。予算やビッグネームに頼らない、いや頼れない環境の中で、アイディア勝負で人気番組を次々と作り上げているプロデューサーがいる。『俺のダンディズム』『ワーキングデッド』『太鼓持ちの達人』などを手がけた濱谷晃一氏だ。高校時代偏差値29→一浪後、慶應義塾大学入学→テレ東入社→プロデューサー、という異色の経歴の持ち主でもある。アイディアはどうやって捻りだすのか、企画をどうやって通すのか、テレ東はなぜ好調なのか、そして一年間で偏差値を40アップさせた勉強術とは?まで、濱谷氏の頭の中を少しのぞかせてもらった。
■制約が多い方が考えやすくて面白いものが思い浮かぶ
──自分のアイディアを実現させるに至るまでのメソッドを書いた『テレ東的、一点突破の発想術』が好評ですが、色々な方から反響が届いていそうですね?
濱谷 友人や社内の人からはFacebookやメールで“面白かった”“非常に僕らしい語り口調だね”と言われたり、知らない方からもTwitterで感想をいただきました。妻からは“最後の一文がよかった”と言われ、何だろう?と思ったら妻への感謝の言葉だったっていう(笑)。あれは、すごく褒められました。製本されてから改めて読んだのですが、普段何となく思っていることを本にすることで、しっかりと考える機会になりました。例えば、アイディアの収集方法という章では“7つあったほうがテレビ東京っぽいだろう”と思い考え始めたのですが、5つしかすぐに思い浮かばず、残りの2つは普段あまり考えていなかったようなことを絞りだしましたね(笑)。この本は、“制約があるほど考えやすい”がテーマのひとつになっているのですが、本作りも、まさにそうだったなと思います。
──イメージしていることは書き出したり、発することで明確になると。
濱谷 活字にするのは会話より密度が濃いと思います。昨年の11月に正式に出版することが決まって、家族にナイショで12月から本腰を入れて書き始めました。テレ東の先輩プロデューサーにあたる伊藤(隆行)や佐久間(宣行)の著書を妻が読んでいまして、ある日、インターネットで“この2作品を読んでいる人にオススメ”で出てきた本の著者が自分の夫だった、そこで初めて知るという(笑)。突然“どういうこと?”とLINEがきました。
──発売日直前にも話さなかったんですか?
濱谷 はい。なんなら、そのまま出版したことを知らさなくてもいいかな、と(笑)。
偏差値29からのテレビプロデューサー。その勉強術とは?
──(笑)。この本で書かれている仕事術は、言葉に堅苦しさを感じないので、ビジネス書が苦手な人でも手にしやすいと思いました。また、「驚かせたくて12時間勉強した」という、浪人生時代のお話も非常に興味深かったです。
濱谷 僕は普通に予備校へ通ったので、特殊な勉強法はしていないです。高校卒業時にどこの大学にも受からなかったので、河合塾の“東大クラス”を希望したのですが、そのクラスに入る人は、どこかしらの私立大には合格している、模擬試験の成績が良い、もしくは高校の成績が良い、それが一つの基準になるそうなんです。その3点のチェックの合格ラインに僕はどれも届いてなくて(笑)。そのクラスに入る資格がないと言われましたが、なかば強引に入れてもらいました。でも、高校時代に勉強していなくても、1年あればすごく伸びると思います。覚えなければならないことは、流し読みでいいから何度も読み返して、覚えているところ、覚えていないところの確認作業をしていく。この暗記スタイルにすれば頭に入ると教えてもらったので、意識するようにしていました。
──1年で慶応義塾大学に合格するまでに到達した集中力は、どうしたら持つことができると思いますか?
濱谷 東大に入っていたらまだしも、落ちている僕が勉強法を話すのは恥ずかしいのですが(笑)、予備校の東大クラスに入れたのが良かったと思います。両隣がデキる人だったから。そういった環境にいると、自然と引っ張られていくんです。と同時に、成績を上げなければいけない焦りも感じました。なので、そのクラスに入った頃からトップギアでいかなければいけない意識はありました。予備校に通っていても秋頃に志望校を決めていたら、そうはなっていなかったと思います。最初に目標を決めて自分に負荷をかけながら、そこへ向かうにはどうしたらいいか。何かの科目のエキスパートになろうとはせず、どれもある程度の点数は取れるように勉強しました。ゼロからエキスパートになれるほど、1年は長くない印象です。
■野心と熱量で企画を通す。そしてその番組が面白いと言われるのが最大の喜び
──今挙げていただいた勉強法は仕事にも活かせそうですね。濱谷さんのアイディアが思いつくきっかけとは?
濱谷 勉強やスポーツで褒められる経験が少なかったぶん、面白いと言われるとうれしかったので、そう言われるようなことを考えるようになりました。内側にあるものをアウトプットして、それを面白くカタチにすることが自分の強みにになる。ドラマなど、フィクション性が強い番組作りにもつながっていると思います。あと、“何かやってやろう”と思う野心も必要。“おまえらよりこっちのほうが面白いんじゃ!”って熱量がないと、企画も通らないと思います。学生の頃から自分に才能があると思ってはいなかったし、入社してからも周りにいる人のほうがセンスがあると感じることも多々あります。その分、自ら打席に立って面白い風の番組を作っていくことで、あたかも面白い人っぽくみえるサイクルに入りたい、という下心もありました(笑)。会社的には斬新なものより視聴率が取れるほうがいいに決まっているのですが、僕が斬新に見える番組ばかり思いつくのは、その方が企画が通りやすいからかもしれません。焼き直しの番組にすれば安心なんですけど、“斬新風なのは、今回が最後です”と言って5年が過ぎました(笑)。いい会社です。
──(笑)。『ワーキングデッド』『太鼓持ちの達人』など、手掛けている番組のネーミングも絶妙ですよね。
濱谷 若干何かの引用に頼っているところはあります(笑)。でも、パロディがいいとは思っていません。テレビ東京で深夜番組を作ります、となった時に、著名人を起用するわけでもないので、誰にも知られずに始まるかもしれない危険性をどう打破することができるのか。そのためにタイトルに引用を混ぜるのは、常に考えていますね。あまり真面目な番組を作ったことがないので、タイトルから面白さが滲み出てくればいいなと。
──ドラマ制作部に移動される前はバラエティ班に所属されていましたが、現在作る番組への影響は大きいですか?
濱谷 大きいです。ドラマって、原作があるほうが話題になりやすいのですが、オリジナルを作り続けるのは、バラエティでの経験が大きいかもしれないです。それこそ、バラエティってオリジナルですよね。 だから、オリジナルを考えるのに抵抗がないし、当たり前になっているんです。その代わり“情報”という保険をかけたオリジナルですけどね。『俺のダンディズム』でいえば、ファッションというブレない軸があった。そういった伝えたいものの縦軸が揺るぎないものであれば、面白くふることもできるんです。安っぽい恋愛ドラマって“これを観てどうしろっていうの?”って思われるリスクがありますもんね。でも、恋愛やヒューマンなど保険のきいてないジャンルで、オリジナル脚本で勝負する脚本家さんや、リスクを恐れずそこに賭けてみるテレビ局はカッコいいなと思います。
■テレ東好調はSNSのおかげ!?視聴率以外で賛否両論してくれるありがたさ
──ちなみに本に出てくるボツ企画は、練り直し+熱量でこの世に出る可能性はありますか?
濱谷 完全にダメだと言われるまでは、手を替え品を替え出すことはあります。『太鼓持ちの達人』も、もともとバラエティの企画で出しました。新しくないということでボツになったのですが、自分の中で社交術というテーマは気に入っていたので、思い切ってドラマにしました。普段脇を固めて主役の太鼓を叩いてきたバイプレーヤーたちがその演技力を活かすドラマ。いかにもテレ東らしいルックスにして、“褒めるドラマ、史上初です”と言い切ってしまって。何度かリライトして、そういった打ち出し方をしたら、斬新と言われるようになりました。
──最後に、テレビ東京の好調さが話題になっていますが、濱谷さんはどう捉えていますか?
濱谷 高視聴率の番組を作っていない僕が俯瞰で言うのも恥ずかしいのですが、実際にはそこまで大きくないクワガタなのに“巨大クワガタ発見”みたいに皆さんが盛って報道してくれているように感じます(笑)。でも、新しいのにお年寄りにも観てもらえるソフトが増えたと思います。それと、テレ東の視聴率が上がったことを皆さんが“すごい、すごい”とSNSで広めあってくれた。この2つが好調な理由だと思います。インターネットの普及で視聴率以外でも賛否両論してくれる。これは、作り手としてはうれしいので、嫌われないようにしたいですね(笑)。
文/洲崎美佳子