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価格設定の手法

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価格設定の手法

 

おかしな価格を生む2つの方法

  • 東京都庁主催「東京しごとの日」イベントでワークライフバランスについて語る(2012年8月)
  •   今回は「価格設定」について見ていこう。

      自分たちのモノやサービスを「いくら」で提供するかを決めていく作業だ。

      実は、ここで躓(つまず)いてしまうNPO(非営利組織)やソーシャル・ビジネスが少なくない。現状に即さないおかしな価格設定をしてしまうのだ。それを生み出す不適切な価格設定の方法が2つある。

      「コスト積み上げ」方式と、「競合比較」方式である。

      前者は、自分たちのコストに利益を乗っけて、そこから価格を決める方法。これはあくまでもこちらの都合での価格設定となるため、利用者が「払ってもいい」という価格になっていない可能性がある。

      一方の「競合比較」方式は、競合他社の価格と比較して、ちょっと安めに設定するという決め方だ。こちらの問題点は、競合他社の価格が適切かどうかわからないこと。基準の価格がおかしければ、こちらの価格もおかしなものとなってしまう。
     
     

    適切な価格を導く「価格感度測定法」とは?

      では、適切な価格を出していくにはどうすればいいのか。

      僕がお勧めするのは、「価格感度測定法」という方法である。

      利用する見込みのある人を対象に、価格の高い・低いについての感情を調査し、そこから適切な価格を導いていく方法である。

      調査する人数(N数)は40がミニマムサイズだ。ただ、無回答などの可能性もあるので、40+αで多少は数に余裕があったほうがいい。その40+αは、年齢や所得などに偏りが出ないよう、ランダムに選ぶ。ただし、利用見込み者ではないところまで手を広げる必要はない。たとえば、東京23区でサービスを展開しようという場合に、北海道のデータまで集める必要はないわけだ。

      本当は完全なランダムサンプリングが望ましいが、実際はそうもいかないので、この40人を集めるのに最も簡易な方法は「口コミ」となる。リアルなつながりのなかで、「こういう人を探している。紹介してくれる?」と当たっていく。あるいは、今の時代なら、フェイスブックやツイッターなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を活用するのもいいだろう。

      ちなみに僕の場合は、フェイスブックのような便利なものがなかったので、保育園の前に立って、出てくる親御さんに「よかったら答えてください。抽選で図書券が当たりますよ」と、アンケート用紙を手渡していった。このとき行った「図書券」などのお土産をつけることは、回答率を上げるうえで多少の効果はある。しかし、必ずしも必要なわけではない。実際に利用してくれる人は、そうしたお土産がなくても回答してくれるものだからだ。
     
     

    価格とは、質を伝えるメッセージである

      さて、調査では、あなたのビジネスが扱うモノやサービスについて、次の4つの質問をする。
     
     (1)いくらから高いと感じ始めるか?
     (2)いくらから安いと感じ始めるか?
     (3)いくらから高すぎて買えないと感じ始めるか?
     (4)いくらから安すぎて品質に問題があるのではないかと感じるか?
     

      この回答から、次のようなグラフができる。

    •   

        4つの曲線に囲まれた菱形部分(中央)が、利用見込み者が「この範囲内なら、払ってもいい」という適切な価格帯になる。

        この価格は、もしかするとあなたが想定していたものより高いかもしれない。が、そこでひるむ必要はない。

        NPOやソーシャル・ビジネスの人たちは人助けのスタンスが強いため、「安いほうがいい」と思いがちだ。しかし、その発想が誤った判断を招くこともある。安すぎると「これって怪しいんじゃない?」と、逆に購入をためらわれかねないのだ。

        価格とは、そのモノやサービスの品質を伝える「メッセージ」なのだ。

        安すぎれば怪しまれる場合があるし、高ければきちんとしたモノだと思ってもらえることもある。とはいえ高すぎれば、購入者層を狭めすぎてしまう可能性もある。

        しかし、大切なのは安さにこだわりすぎたために、利益が残らず、結果的に品質を落とさざるをえなくなる……という「負のスパイラル」に陥ることだけは絶対に避けなければいけないということだ。
       
       

      価格に階段をつける

        ただ、適正な価格設定ではあっても、「お金がない人は使えない」というのでは、NPOやソーシャル・ビジネスとしては不十分である。とくに福祉系のジャンルには、セーフティーネットの役割も担うケースが多く、そのモノやサービスを必要とするさまざまな層に利用してもらえる価格設定にすることは必要だろう。

        その場合、価格に「階段」をつける方法がある。

        たとえば、フローレンスの病児保育では、個人向けとして「ベーシックプラン」と「ひとり親支援プラン」という2つの価格メニューを用意している。同じ品質のサービスを提供しつつ、後者では価格を格安に設定しているのだ。

        こうした階段をつけた場合、トータルでの利益がきちんと出るための仕組みづくりも必要となる。儲(もう)からない部分を穴埋めする「何か」を用意しておく必要があるのだ。フローレンスの場合は、「ひとり親支援プラン」については「寄付」を募り、財務的に成り立つようにしている。
       

        以上が、適切な価格を設定するための方法だ。

        価格感度測定法で価格を設定したら、それをベースに、もう一度、財務モデルにまわしてみよう。そこで利益が出ないことがわかったら、コスト構造を見直すなどして、利益の出る財務モデルにしていくといいだろう。

        なお、「価格感度測定法」についてもっと詳しく知りたい人は、『一瞬でキャッシュを生む!価格戦略プロジェクト』(神田昌典・監修、主藤孝司・著/ダイヤモンド社)を参照してもらいたい。これは隠れた名著で、一般のビジネス、ソーシャル・ビジネス双方で使えるメソッドだ。読まないでこれから起業することは、あまりお勧めできない。
       

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