社会そのほか速
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明治から大正時代にかけ、全国の蚕糸(さんし)業を支える蚕都として栄えた長野県上田市。
紬(つむぎ)工房の一角に、信州大学繊維学部(同市)の学生たちによる活動「ハナサカ軍手ィ(グンティ)プロジェクト」の拠点がある。
赤やピンク、青、黄など色とりどりのチェックや花柄などの軍手が並ぶ。「納品書を作るのをサボらず、しっかり販売店に渡すように」「商品管理を逐一報告して」。11月上旬、夜の会議で、先輩たちの厳しい指示が飛び、後輩たちの表情が引き締まった。
「寒い冬の街を華やかにし、上田市から日本中に明るく元気な笑顔の花を咲かせよう」と、同学部の学生が2009年、軍手に様々なデザインのプリントを施した「軍手ィ」を発案。学生ら26人がデザインや、製造会社への発注などをし、県内の約30店舗などで1組500円で販売し、収益の一部で「ちび軍手ィ」を製作している。当初は市内の小学1年生にプレゼントし、今年から県内の全小1約1万8000人に贈る予定だ。
1970年代に始まった石油ショックで繊維産業は傾き、全国の大学は次々と繊維学部の看板を下ろした。しかし、同大は学部名を守り、今では繊維学部を持つ全国唯一の大学だ。
「繊維の素材開発から流通・販売までを幅広く扱う学部。理学、工学、農学、医学などを横断的に融合して学ぶ」と、同学部の上條正義教授(50)。
上條教授の専門は感性工学で、着心地など数値化しづらい感性をいかに測り、価値あるモノを創造していくかを研究している。「相手とコミュニケーションを取りながら、要望に沿った軍手を作り上げていく体験は、感性価値を創造する取り組みそのもの」と、学生たちの活動を評価する。
2010年のバンクーバー・パラリンピックで日本選手団の公式手袋に採用されたり、軍手をPRするポスターに女優の足立梨花さんを起用したりして、県外にも知られるようになった。今年9月には英国ロンドンで開かれた見本市にも出展した。
民間と信州大、上田市でつくる産学官連携支援施設「浅間リサーチエクステンションセンター」の岡田基幸専務理事(43)が活動の顧問を務める。「学生の熱意が周囲の大人を動かす。注文や納品などをめぐるトラブルを自分たちで解決する経験を重ね、たくましく成長している」と見守る。
会議では、今冬の子どもたちへのプレゼントに向け、試作品をチェック。柄や色の打ち合わせをした。
デザイン担当の同学部3年目黒水海(みなみ)さん(20)は「仲間から何度もダメ出しされるが、子どもらから『これ、かわいい!』と言われると、自信につながる」。プロジェクト代表で同学部4年の藤井知奈美さん(22)は「冬でも外で遊べるよう、多くの子どもに贈りたい」。
活動は今年で6年目。市内の小学生全員に軍手を贈ることになる。子どもたちが華やかな両手を振りながら笑顔で走り回る街にしたい――。学生たちの願いがかなう日は近そうだ。(保井隆之)