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国際社会に対する中東の「不信感」と「被害者意識」とは? 黒木英充、高橋和夫、萱野稔人らが議論(3)

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国際社会に対する中東の「不信感」と「被害者意識」とは? 黒木英充、高橋和夫、萱野稔人らが議論(3)

 国際社会に対する中東の「不信感」と「被害者意識」とは? 黒木英充、高橋和夫、萱野稔人らが議論(3)

 

  THE PAGEが放送した生放送番組、THE PAGE 生トーク「中東とどう向き合うか~イスラム国から日本外交まで~」(http://thepage.jp/detail/20150302-00000006-wordleaf?)。出演は、黒木英充・東京外国語大学教授、鈴木恵美・早稲田大学イスラーム地域研究機構招聘研究員、高橋和夫・放送大学教授。司会・進行は、萱野稔人・津田塾大学教授、春香クリスティーンさん。
 
  以下、議論の書き起こしの第3部、「国際社会に対する中東の不信感と被害者意識」を議論した部分の書き起こしをお届けします(第2部はこちら(http://thepage.jp/detail/20150315-00000002-wordleafv?))。
 
 ※討論の動画は本ページ内の動画プレイヤーでご覧頂けます。

被害者としての意識

 [画像]高橋和夫・放送大学教授

 (以下、書き起こし)
 
 萱野稔人:そうですね。なるほど。いや、国際関係が、ものすごく中東に影響してるっていう話があったじゃないですか。
 
 春香クリスティーン:はい。続いてのテーマはそのまさに国際社会の中で、ちょっともうだいぶ話出ましたけど、あらためて、はい。国際社会の中での中東。
 
 萱野:そうですよね。中東が世界をどう見てるのかっていうこともやはり気になりますし、世界が中東をどう見てるのかっていうこともやっぱり気になると思うんですけども、まず中東が世界をどう見てるのかっていうことを、じゃあ、黒木さん。
 
 黒木英充:はい。中東が世界を。
 
 萱野:世界は、先ほど十字軍だというお話ありましたよね。もうちょっと、なんて言うんですかね。広げて言うと、どういうことが言えます?
 
 黒木:おそらく、これも中東の人もいろんな人たちいますので、一概に言えない。私なんかが今まで主に付き合いがあったシリアとかレバノンとか、そういった辺りの人たちをちょっと念頭に置いて言いますけど。
 
  1つはこの長期的な動き、今国際関係の話がずっと続きましたけれども、その社会の中のほうについて見れば、あの地域ってイスラムだけじゃなくて、キリスト教徒やユダヤ教徒とか、最近はイラクのイスラム国の関係でヤズィーディーっていう宗派が急に知られるようになったり、いろんな人たちが今までいたんですね。例えば人が何人か集まると、途端に言葉が2つ、3つしゃべられるとか、宗教もいろいろ違うとか、そういうことが極日常的にあった世界なんですね。それが、ここやっぱり100年、150年ぐらいの間にだんだんと分かれていって、今、行き着くところでスンニ派対シーア派っていうことでざっくりきちゃってるわけですが、それまでに、例えばイスラエルが建国されたときにユダヤ教徒がそっちのほうに移住して、今までたくさん住んでた人たちがいなくなるとか。今はキリスト教徒がこの地域からどんどん外へ出ていってるわけですね。殺されたりもしてますけれども。
 
  ですから、そういうところからすると、それまで、これまであった自分たちが共存してきたこの社会っていうものを、外の人たちがこう、混乱させて、いわばばらばらにしていくっていうかね。そういう一種の被害者的な意識っていうのは1つあると思いますね。
 
 萱野:その場合、外っていうのは必ずしも欧米とは一致しないんですか。
 
 黒木:例えば、今のあれで言うと、例えば湾岸諸国っていうのはそういう形で、例えばスンニ派対シーア派っていうものを、その枠組みを盛んに強調していたのは湾岸諸国のいわゆるオイルマネーで潤う国々ですね。それと例えばエジプトなんかも結び付いていたわけですが。だから、去年、おととしぐらいまでは今それこそシリアに行ってはいけないって言って今人を止めてますけれども、エジプトのモルシ政権は、シリアに行けっていう形で奨励してたわけですよ。
 
 萱野:なんでですか、それは。
 
 黒木:それはもう内戦でアサド政権をやっつけということですよね。だから、今でもそういう雰囲気はないわけでも、ほかの湾岸諸国の中ではないわけではない。ですから、もうですから周りを見渡すと、もうある人にとってはそれは友達かもしれないけど、別の人にとっては敵になるっていう、なんかそういうものが常にあるわけですね。
 
 萱野:本当ですね。そうですね。
 
 黒木:で、その中で社会の多様性がどんどん失われていくっていうことですよね。

国際社会への不信感

 萱野:なるほど。鈴木さんはどうご覧になっていますか。国際社会の中の中東。中東が世界をどう見ているのか、他国をどう見ているのかっていう観点からまず。
 
 鈴木恵美:そうですね。中東って言うと本当に広くなってしまうので、私の専門のエジプトについてちょっとお話しさせていただければと思うんですけれども、エジプトは個人レベルでは非常にアメリカ大好きと、ヨーロッパ大好きっていう人たち多いんですけども、でも、その国の政府っていうとまた違いますよね。非常に反米であり、ヨーロッパ諸国に対しては非常に不信感みたいなのが、なんか心のどこかにあった人たちなわけですけれども、アラブの春以降の欧米諸国の中東との関わりの中での一貫性のなさっていうのが非常に露見されたので、その不信感みたいなのがよりいっそう強まったっていうのはありますね。
 
  モルシ政権に対して否を唱えた人たちの、唱えた人たちっていうのは、モルシ政権っていうのはアメリカが裏で糸を引いていてアメリカが援助している国であると。で、オバマはもう悪魔だというようなことをみんな言ったわけですね。アメリカが裏で糸を引いてるっていうような言説、今でも、昔からもあったんですけども、そういった言説が大手を振って歩くようになったっていう。欧米への不信感っていうのが非常に強まったと思いますね。
 
 萱野:なるほど。昔からでも、エジプトの政権ってアメリカが糸引いてるような印象があるんですけども、それは昔はあまりエジプトの国民はあんまり感じてなかったっていうことですか。
 
 鈴木:いや、感じてはいましたけども、それが強まったっていうことですね。1つ例を挙げれば、リビアに対してはNATO軍中心というと、イギリスとフランスが中心ですけれども、軍事介入して倒したと。じゃあ、なんでシリアにしないんだと。こういった矛盾みたいなものに対して、ああ、やっぱり欧米諸国はもう利害だけでしか動かないよねと。自分たちの命なんてどうでもいいって思ってるよねっていうふうに、みんな感じちゃったわけですよね。
 
 萱野:なるほど。それがまた国内勢力であそこはアメリカが糸引いてるとか、そういうところにも向かっていくわけじゃないですか。
 
 鈴木:そうですね。
 
 萱野:ものすごい今、不信感がじゃあ、蔓延してるというふうに考えていいわけですか。
 
 鈴木:そうですね。不信感蔓延してますけれども、ただ、手遅れっていうようなことではなくて、まだまだ欧米に対しては期待してるからこそ、仲良くしたいという気持ちが強いからこそ、それが裏切られたとき、ちょっと失望したときに、結構過剰な言説っていうのが出ちゃうんだと思うんですよね。何かのきっかけでまた関係が良くなるという可能性はでも、あるとは思います。

アメリカの特殊性

 萱野:高橋さん、先ほどイランとアメリカの綱引きの中で動いてきたものががらっと、綱引きの構図自体が変わってしまうというお話がありましたけど、その状況を逆に今度はアメリカやヨーロッパっていうのはどういうふうに見てるっていうふうに考えられます?
 
 高橋:ええ。ヨーロッパはアメリカにそう頑張ってもらって戦争してもらってもなっていう感覚があったんで、基本的には歓迎してると思うんですよね。アメリカも、実はアメリカという国がすごい複雑で、もうそれはイランと付き合うしかないだろうっていう非常に現実的な人たちもいるし、もう79年のアメリカ大使館人質事件を覚えている世代は、もうイランと言っただけで画面が飛んでしまうような感じで、血が頭に上って、もうイランとなんか絶対付き合うべきじゃないという、そういういろんな流れがありますよね。
 
  で、実は私、日本人は中東は難しいって思ってるじゃないですか。アメリカはなんか、日本人、なんとなく知ってるつもりなんですよ。なんかハンバーガー食べてコーラ飲んだらアメリカ分かったような気がしてるけど、アメリカってすごい複雑な国で、われわれが知ってるハリウッドとかニューヨークは実はアメリカじゃなくて、サイモンとガーファンクルの歌にニューヨークからアメリカを見に行くっていう歌がありますよね。まさにそうで、われわれが知ってるアメリカは、ほんの特殊なアメリカなんですよ。でも、なんかニューヨークがアメリカだとか、カリフォルニアがアメリカだとか思ってて、で、日本人から見たらあれほどばかな戦争をしたブッシュが、やっぱり大統領選挙を2回勝ってるんですよね。だから、ブッシュがいいというアメリカ人がたくさんいる。
 
  そのアメリカを日本人は知らないんですよ。すごい宗教的で、毎週教会に行って、神さまに愛されてるからこそアメリカは偉大なんだって本気で思ってる人がたくさんいて、それが正しいかどうかは別として、そういうアメリカとわれわれは付き合っていかないといけないのに、ニューヨークのアメリカ、ハリウッドのアメリカしか知らなくて、アメリカはねって言うけど、アメリカはそんな単純なもんじゃないでしょという。アメリカは新しい国って言うけど、独立以来、アメリカの歴史は明治日本よりはるかに長いわけで、なんか日本人は中東が分かってないというのは分かってる分だけまだましだと思うんですけど、アメリカは全然分かってないのに分かってるつもりというのが僕はなんか日本人の、中東政策を見ていてもはらはらするんですけど、アメリカ解説というのを見ててもはらはらするところがありますね。
 
 萱野:なるほど。結構、例えば中西部の田舎のほう行くと、銃を持って、ミリシアっていうか民兵たちが集まって、白人至上主義だとか、なんかナチと似たような儀式したりとかっていうことを今だとインターネットで結構見れたりするじゃないですか。ああいうのもある種、アメリカの一部だというふうに考えたほうがいいってことですか、それは。
 
 高橋:そうですね。で、決して銃を持ってる人が異常な人たちじゃなくて、もちろんああいうミリシアの人たちは異常かもしれないですけど、やっぱり自分の国は自分で守る、自分の権利は自分で守ると。銃を与えられたからこそイギリスから独立できたんだって本気で思ってる人がたくさんいて、私は学生のときアメリカに留学してて、お金がないからグレイハウンドのバスでよく移動してたんですけど、朝、夜が明けますよね、徹夜で走ってるから。そうすると、バスの運転手さんが、「今日も神さまに感謝して、この美しい夜明けを感謝して、みんな一生懸命働きましょうね」ってなんかここは走る教会かという感じですよね。でも、そういうアメリカがあるんですよ。
 
 萱野:そうですよね。だって、進化論を許せないって言って学校に行かせない家庭が何千万近く、もう1,000万とか2,000万とかそれぐらいあるって聞きますからね。
 
 高橋:ええ。だから、「ハリー・ポッター」みたいなね、あんな聖書に出てこない、魔術なんてとんでもないと。ああいう本は図書館に置かないでくれって運動はあるし、進化論は教えてくれるなと。恐竜なんか聖書に載ってないと、あんな大きなものはノアの箱舟に乗れないじゃないかという議論がかなり真面目になされる社会で、そういうほとんどわれわれはイスラム原理主義と言うけど、そういうアメリカのキリスト教原理主義的な人たちともお付き合いしていかないと生きていけないという、こういう状況で、そういう人たちが中東政策を残念ながら動かしてるという面があるんで、それが好きとか嫌いとかまた別問題ですけど、アメリカはね、という単純な発想ではちょっと動かない。
 
 萱野:なるほど。われわれが思ってるほど世界はのっぺりもしてなくて、もっとぐちゃぐちゃだ、もういろんなひだがあるんだっていうお話だと思いますけども。
 
 春香クリスティーン:そうですよね。なかなか単純にイメージを持ってしまう部分がありますけど。
 
 萱野:そうですよね。中東に対峙する欧米もいろいろあるということで、私も欧米、フランスに留学で行ったころ思ったんですけど、やっぱ人種差別、ものすごい根強いんですよ。アラブ人に対する、イスラム教徒に対する。本当に心の底から嫌ってますよ。全員じゃないんですけどね。あれを見るとやっぱり中東、ヨーロッパはヨーロッパで相当色眼鏡を掛けて中東を見てるなっていう気はしますよね。
 
 ———————-
 ※書き起こしは、次回「第4部」に続きます。

 ■プロフィール
 
 黒木英充(くろき ひでみつ)
 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授。専門は中東地域研究、東アラブ近代史。1990年代に調査のためシリアに長期滞在、2006年以降はベイルートに設置した同研究所海外研究拠点長として頻繁にレバノンに渡航。主な著書に『シリア・レバノンを知るための64章』(編著、明石書店)など。
 
 鈴木恵美(すずき えみ)
 早稲田大学イスラーム地域研究機構招聘研究員。専門は中東地域研究、近現代エジプト政治史。著書に『エジプト革命』中公新書、編著に『現代エジプトを知るための60章』、他、共著多数。
 
 高橋和夫(たかはし かずお)
 評論家/国際政治学者/放送大学教授(中東研究、国際政治)。大阪外国語大学ペルシャ語科卒。米コロンビア大学大学院国際関係論修士課程修了。クウェート大学客員研究員などを経て現職。著書に『アラブとイスラエル』(講談社)、『現代の国際政治』(放送大学教育振興会)、『アメリカとパレスチナ問題』(角川書店)など多数。
 
 萱野稔人(かやの としひと)
 1970年生まれ。哲学者。津田塾大学教授。パリ第十大学大学院哲学科博士課程修了。博士(哲学)。哲学に軸足を置きながら現代社会の問題を幅広く論じる。現在、朝日新聞社「未来への発想委員会」委員、朝日新聞書評委員、衆議院選挙制度に関する調査会委員などを務める。『国家とはなにか』(以文社)、『ナショナリズムは悪なのか』(NHK出版新書)他著書多数。
 
 春香クリスティーン
 1992年スイス連邦チューリッヒ市生まれ。父は日本人、母はスイス人のハーフ。日本語、英語、ドイツ語、フランス語を操る。2008年に単身来日し、タレント活動を開始。日本政治に強い関心をもち、週に数回、永田町で国会論戦を見学することも。趣味は国会議員の追っかけ、国会議員カルタ制作。テレビ番組のコメンテーターなどを務めるほか、新聞、雑誌への寄稿も多数。著書に、『永田町大好き! 春香クリスティーンのおもしろい政治ジャパン』(マガジンハウス)がある。

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