社会そのほか速
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「男社会」といわれる伝統工芸の世界で、女性職人が増えている。
手に職をつけたい若い世代の増加や、女性の弟子入りへの門戸の広がりが背景にある。後継者不足や需要の低迷に悩む業界で、女性の活躍が期待されている。
1月上旬、佐賀県有田町内の工房。有田焼のろくろ師、白須美紀子さん(36)が、電動ろくろを回し次々とご飯茶わんの形を作り出す。「同じ物を幾つも作れるのが職人です」と淡々と話す。
白須さんは2013年、有田焼のろくろ部門で、女性初の伝統工芸士に認定された。活躍が期待される女性を表彰する、内閣府の14年度「女性のチャレンジ賞」にも選ばれた。
「ものづくりをする人生を送りたい」と職人を志した。女性を採用する工房が少ない中、現代の名工に選ばれたろくろ師の矢鋪與左衛門(やしきよざえもん)さんに出会い、22歳で弟子入りした。
白須さんは身長1メートル47。茶わんは座って作れるが、花瓶などの大きな器を作る際は、男性と違い、立っての作業になる。土をこねるのにもかなりの力がいる。白須さんは「大変と思ったことはない」と話すが、矢鋪さんは「私のまねだけでは習得できない。努力と工夫をした」と評価する。
白須さんは「将来は独立し、絵付けの技も磨き、食事が楽しくなる食器を作っていきたい」と夢を語る。
伝統的工芸品産業振興協会によると、伝統工芸士の総数が04年の4618人から13年の4280人に減る中で、女性は505人から602人に増えた。同協会の指田京子さんは、「手に職をつけたい女性が増えた。自分で創造する仕事に憧れもあるようだ」と見る。
後継者不足の影響を指摘するのは、「伝統工芸を継ぐ女たち」(学芸書林)著者の関根由子さん。「男性のなり手が減り、女性を育成する動きが広がった」
独自性が評価され、活躍する女性職人も出てきた。
東京染小紋の職人、岩下江美佳さん(41)は07年、この分野で女性初の伝統工芸士に認定された。08年に独立、メーカーと共にブランド「粋凛香(すいりんか)」を設立した。
江戸時代に武士の裃(かみしも)として普及したのが始まりとされる東京染小紋は、職人が生地の上に型紙を置き、へらでのりを延ばして模様を付ける。
着物でよく外出する岩下さんは、着る側の視点をいかし、着こなしの幅が広がるようにと、花火にも菊にも見えるような型紙の模様を考案した。こうした独自のデザインに女性の支持が高い。「伝統の技は受け継ぎつつ、新しいデザインに挑戦したい」と意気込む。
経済産業省によると、国が指定する伝統工芸品の生産額は、12年で約1040億円。1983年の5分の1だ。同省日用品室・伝統的工芸品産業室は「女性職人は、ものの使い手としての感性も持つ点が強みになる。若い世代や他国の人に好まれる作品づくりが期待されている」と話す。
女性職人は増えたが、全体ではまだ少ない。女性職人としての働き方などを気軽に相談できる相手もなく、どんな商品やデザインが市場で求められているのかもわからず、一人で悩む人もいる。
悩みに応えようと、伝統的工芸品産業振興協会は2004年から年1回、40代以下の女性職人の展示会を東京都内で開いている。13年からは、女性職人が仕事への思いを語るトークショーも行う。「女性職人同士が分野を超えて交流したり、来場者などと話すことで自分の作品の評価を確認したりできる場にもなる」と同協会の担当者。
昨年10月に参加した石川県加賀市の山中漆器職人、山田真子さん(35)は「他の職人の感性に触れ、刺激を受けた。若い女性が私の器を『カフェオレボウルにしたい』と買ってくれたのも、自分の作品への自信になった」と喜ぶ。(矢子奈穂)