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スペイン・バルセロナで開催された「バルセロナ・オープン・バンコサバデル」(ATP500/4月20~26日/賞金総額 199万3230ユーロ/クレーコート)の決勝で、第1シードの錦織圭(日清食品)がパブロ・アンドゥハル(スペイン)を6-4 6-4で下し、2年連続優勝、そしてツアー通算9勝目(男女を通じて日本人選手最多記録)を達成した。
◇ ◇ ◇
「連覇のことより、ただベストを尽くした」錦織がアンドゥハルを下して2年連続優勝 [バルセロナ・オープン・バンコサバデル]
双方が死力を尽くした見応えある決勝だった。しかし、それは錦織にとって非常に苦しい戦いでもあった。
「マッチポイントは、目をつぶって思いきって打った。早く試合を終わらせたかったから」。錦織は勝利の直後にコート上でこう言った。「このタイトルを防衛できて本当にうれしい。特にクレーで2年連続で勝てたということには大きな意味がある」。
第2セット、5-4から、アンドゥハルのサービスゲームで訪れた唯一のマッチポイントで錦織は、勝負をかけてバックハンドのリターンをダウン・ザ・ラインに叩き込んだ。決まった瞬間、両手を突き上げた錦織の歓喜は、その1本のエースの重要性を映している。わずかな隙をついて巻き返した錦織だったが、アンドゥハルはいまだ勢いに乗り、アグレッシブな姿勢を崩していなかったからだ。
この日、錦織が見せたのは、たとえ100%の調子でないときでも、苦しい競り合いの中で然るべき瞬間に集中力を高め、重要なポイントをむしりとりにいく能力だった。おそらくそれが彼をトップ10選手にしたものであり、トップ10選手となったからこそ、恒常的となった能力でもあるのだろう。
試合後、勝たなければいけないというプレッシャーがあったか、と聞かれた錦織は「正直、今日はあった」と明かしている。「クレーでは有名な選手で、しかし、ランキング的には下の選手で、なんとなく重荷は感じていたし、それが少しプレーに出ていたところもある。最初は硬さもあり、出だしがよくなかった」。
確かに錦織の試合への入り方は、それまでの試合ほどいいものではなかった。アンドゥハルは事前に宣言していた通り、錦織のセカンドサービスを叩き、チャンスと見ればすかさずネットに出て攻撃。錦織は第1セットの第1ゲームをいきなりブレークされる。
次のゲームですぐにブレークバックしたものの、この日の錦織はこれまでなかったアンフォーストエラーも多く、断続的にサービスキープに苦労することになる。おそらく緊張がミスの最大の原因だったと、あとに認めもしたが、それからこうも言い添えた。
「でも、悪い中でも流れを引き戻して自分のプレーを取り戻せたという点は、強くなっているところかな、と思う」
錦織が挙げた、もうひとつの向上した点は「しっかり集中するべきときに集中できていること」だ。第1セットの最終ゲームもその一例だろう。錦織は自分のサービスゲームをデュースからキープして5-4としたあと、アンドゥハルのサービスゲームで勝負に出た。
第10ゲームは、アンドゥハルのフォアボレーのエースで始まった。しかし、錦織はそこから2本連続でバックハンドのストレートウィナーを叩き込む。続くポイントでは、アンドゥハルのネットラッシュのプレッシャーもあって、フォアハンドをネットにかけた錦織だが、次にはセカンドサービスを叩き、アンドゥハルのミスを誘って30-40。こうしてついにセットポイントをつかむと、厳しいコースを突いて揺さぶりをかけ、一発でそのブレークチャンスをものにした。
第1セットを6-4で取った錦織に、ほっとしている間はまったくなかった。がっかりするどころか、むしろ勢いを増すアンドゥハルは、錦織自身のミスにも助けられてブレークポイントを奪取。甘いセカンドサービスを叩いて、第2セットの第1ゲームもいきなりサービスをブレークした。
「セカンドセットの出だしも悪かった。簡単に相手の流れになりそうな形勢で、2ブレークを与えそうになったときもあったが、0-2になってからは、もう自分のサービスに集中することだけを考えていた。リターンゲームでいつかチャンスがくるだろうと思いつつ、とりあえず自分のサービスに集中していた」と錦織は振り返る。
錦織にもいいショットが断続的に出ていたが、アンドゥハルはドロップショットを多発して錦織を走らせ、概して試合の主導権を握っていた。第5ゲームのアンドゥハルは、ネットラッシュやドロップショットで錦織を前におびき出してパスエースを打つなど、多彩な攻めで会場を沸かせ、ますます観客を味方につけ始めていた。
アンドゥハルにワンブレークを許したまま、錦織は離されないようついていくのだが、錦織のいいプレーと、アンドゥハルのミスが相まって、錦織が比較的楽にサービスをキープした第7ゲームのあと、同じ要因から錦織のブレークバックが実現する。
30-30から、錦織のフォアハンドが深く入ってアンドゥハルの返球が浮き、錦織はそれをオーバーヘッドで容赦なく叩いた。次のポイントでネットに詰めたアンドゥハルは、足元に沈んだ錦織のショットを返せずにネットミス。錦織は、本当に一度きりだったブレークチャンスをものにして、4-4と追いつくことに成功する。
「非常に厳しいセカンドセットだった。彼はずっとリードしており、僕はある意味でファイナルセットにもつれ込む準備をしていた。最後の数ゲームをどうやって連取したのか、自分でもよくわからない」と錦織は試合後に言っている。
無我の境地とでも言おうか、次の自分のサービスゲームで錦織は、セカンドサービスできわどいコースを突いたり、ファーストサービスに続いてドロップショットでエースを奪ったりと、いくつかの大胆な手でサービスをキープする。そのときのことはよく覚えていないという本人は、「今思うと怖い選択だけど、たまに試合中に思いきっていくときも必要なので、我ながらよくやったと思う」と言って微笑んだ。
そして5-4として迎えた相手のサービスゲームで錦織がつかんだマッチポイントは、アンドゥハルの3本のミスのおかげだったが、それをつかみ取ったのは錦織の勇気だった。冒頭の渾身のバックハンドリターンのエースについて、錦織はこう思い出す。
「本当に目をつぶってはいなかったが(笑)、思いきっていった。ダウン・ザ・ラインにはたぶん試合の中で1度しか打っていなかったはず。ひとつ前のポイントで相手がダブルフォールトして、強くはこないと思ったので、思いきって前に入ってウィナーを取りにいった」
そして、そこで得たものは、タイトルだけではない。
「本当にうれしい。連覇を心掛けてやっていたわけではないが、第1シードで、何となく重荷を感じたり感じなかったりしながら、一試合ずつ集中して戦った。今日の試合は100点ではなかったけど、しっかり締めるところは集中してできて、ほかの試合では自分の理想のやりたいテニスができていた。相手との駆け引きもやりながら、クレーでしっかりいい試合ができていたので、優勝していてもしていなくても、クレーでの自信はしっかりついたと思う」と錦織は言う。
「マスターズで結果を出したいから、この自信をしっかり頭に入れて、次のマドリッドとローマ(ともにATP1000)で頑張りたい。そしてそのあとにはフレンチ・オープンもある。このまましっかりプレーしていければ結果もついてくると思う」
このバルセロナは、錦織のクレー4連戦の最初の一歩なのである。
◇ ◇ ◇
アンドゥハル・コメント
「錦織はここぞというポイントを決して逃さなかった。こういう選手に対しては不必要なミスをすることは許されない。勝負を分けたのはほんのわずかなことだったと思うが、そのわずかな何かを彼はつかみ、僕はつかめなかった。それでも今日の決勝は僕にとって大きな瞬間なひとつだ」
錦織のアンドゥハルに対するコメント(記者会見で、これまでの試合よりフォアハンドの正確さと安定性を欠いていたことを指摘されたことに対する返答)
「いくつもの理由からだと思う。重要な決勝なので、僕は少し硬くなっており、パブロ(アンドゥハル)はアグレッシブにプレーしていた。ボールをよく動かし、ダウン・ザ・ラインに鋭いバックハンドを打ち込んできた。僕のフットワークも100%ではなく、あまりうまく動けていなかったんだ。ただファーストセットの終わりと、セカンドセットの最後の数ゲームで、僕はすごく集中し、よりアグレッシブになろうとし、その面でよくやったと思う。だから僕がすべての重要なゲームを取ったが、今日、全体的に見れば、彼のほうがよりよい選手だったかもしれない」
(Tennis Magazine/ライター◎木村かや子)
Photo: BARCELONA, SPAIN – APRIL 26: Kei Nishikori of Japan celebrates after defeating Pablo Andujar of Spain on the final match during day seven of the Barcelona Open Banc Sabadell at the Real Club de Tenis Barcelona on April 26, 2015 in Barcelona, Spain. (Photo by Alex Caparros/Getty Images)