九州電力川内原発をめぐる誤報で、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会から「放送倫理違反」とする意見書が出されたテレビ朝日系ニュース番組「報道ステーション」。意見書の中では、失態を演じた「報ステ」のお粗末な現場体制もあぶり出された。「分業体制」の落とし穴と放置された「間違いの指摘」。間違いだらけのニュースが生まれた舞台裏とは-。
「どこをVTRに使うかによって視聴者の印象は変わってくる。今回の編集は事実を正確に伝えたことにならない」
BPO放送倫理検証委員会が9日、都内で開いた会見。川端和治委員長は「報ステ」の報道姿勢をこう断じ、「客観性と正確性、公平性を欠いた放送倫理違反」とする意見書を公表した。
問題の報道は昨年9月10日放送分。川内原発の再稼働をめぐる報道の中で、原子力規制委員会の記者会見の内容を誤って伝えたというものだ。
意見書によれば、「報ステ」は竜巻についての質問に答えた原子力規制委の田中俊一委員長の発言を、火山に関する発言になるように編集。記者とのやりとりを省略し、田中氏が複数の質問への回答を拒んだかのようにも受け取れるVTRを作ったという。
テレ朝は、原子力規制庁から抗議を受け、12日に番組内で謝罪と訂正を行った。BPOはこの対応に「迅速で、適切だった」と評価したが、誤報を生んだ報道姿勢を「フェアな報道姿勢とは言いがたい」と指弾した。
意見書では、誤報を生んだ番組制作現場の舞台裏も明らかにされた。
BPOは、問題のVTRが、放送開始の約3時間前に作成することが決まったとし、少ない時間で放送時間に間に合わせるように作業する「追い込み」が「事実誤認と不適切な編集」を招いたと指摘。VTR作成には、ディレクター5人と、記者、プロデューサー、ニュースデスクがそれぞれ1人ずつの計8人が関わっていたものの、それぞれが「全体に関与するという意識が希薄だった」とも。「泥縄式のチーム編成」が問題の背景にあると指摘し、会見に出席した委員は「過度の分業体制がアダになった」と評した。
番組放送中に社内で出た間違いの指摘も「田中委員長は火山の審査基準についても似たような発言をしているから、原発の審査基準の『一般論』として成り立つんじゃないか」と“スルー”されたという。これについても、委員は「苦しい言い訳」と断じている。
放送業界のお目付け役からお粗末な社内事情を暴露され、キツいお灸を据えられたテレビ朝日。同社広報は「今回の決定の内容を真摯に受け止め、今後も正確で公平・公正な報道に努めてまいります」と発表。9日夜放送の「報ステ」では古舘伊知郎キャスターが謝罪し「再発防止に努めたい」と述べた。果たして反省は生かされるのか。