社会そのほか速
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日本でも大ヒット上映中の米映画『アメリカン・スナイパー』。
2月24日には、主人公のモデルとなった米海軍特殊部隊「SEALs(シールズ)」の元隊員、クリス・カイル氏ら2人を射殺した元兵士の被告に、仮釈放なしの終身刑が言い渡されこともあり話題作りに一役買っているようだ。
クリスと被告の共通点は、イラク戦争に派兵され、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を患っていたことだ。
映画は、基本的にクリスの半生を追う伝記ドラマという体裁なので、何の予備知識もなしに鑑賞すると疑問符が付くシーンが多い。
まず、出てくるイラク人の誰もが「米兵を殺そうと機会をうかがっている野蛮人」として描かれていることだ。しかも老若男女が、である。それ以外にも、過激派の情報に10万ドルもの大金を要求したり、自宅の床下に大量の武器を隠していたりと、悪だくみに余念がない人々に見える。
つまり、背景が一切説明されていないのだ。
米本国では、一部の批評家やジャーナリストからこういった部分が問題視され、「違法なイラク侵略を正当化している」などと批判されている。
では、どんな補助線を引けばよりクリアになるだろうか。
イラク戦争を舞台にした3本の映画を材料に探ってみよう。
◆フセイン時代よりもひどい拷問
『グリーン・ゾーン』(’10)は、フセイン政権崩壊直後のバグダッドで大量破壊兵器の捜索を命じられるロイ・ミラー上級准将(マット・デイモン)が主人公のサスペンス映画だ。
だが、ご承知の通り大量破壊兵器云々は、米国がイラク攻撃を行なうためのプロパガンダだったわけで、手渡された情報に従って捜索しても何の成果もなく、最終的にはミラーの個人プレーで虚偽が暴かれるオチになっている。
事実、2004年10月、米国政府調査団は「開戦時にはイラク国内に大量破壊兵器は存在せず、開発計画もなかった」とする最終報告書を米国議会に提出した。
結末は正義の軍人ミラーVS国防総省の一高官のバトルに単純化されてしまうのだが、本当に重要なのは少しだけ登場するCPA(連合国暫定当局)の動きだ。
彼らはバース党関係者を公職(警察官、教職員など)から追放し、イラク軍を解散。20万人以上の武装した兵士が無職になった。
これが結果として治安悪化に拍車をかけた。
また、ミラーの個人プレーを終始妨害する特殊部隊の隊長が、容疑者を拷問にかけるシーンも見逃せない。
バグダッド空港内の立入禁止区域にあった収容所「キャンプ・ナマ」を思わせる。
アブグレイブ刑務所以前から反乱分子と疑われるイラク人を拉致し、長期勾留・拷問をしまくっていたからだ。担当者が収容者を死なせても罪に問われなかった。しかも高い割合で無実の者が含まれていた。
『アメリカン・スナイパー』の原作では、クリスは「やつら(武装勢力)はジュネーヴ協定を守らない」と憤っていたと妻が回想しているが、米国はそもそも最初から守る気などはなく、グアンタナモのノウハウを秘密裏に持ち込んでいたのである。
国連調査官が「あまりのむごたらしさに多くの人が、フセイン政権時代よりも今のほうがひどいと言っている」と報告した「骨折を伴う執拗な殴打、睡眠妨害、水責め、性的虐待、電気ショック、極端な寒冷環境にさらす」行為が日常的に行なわれていた。
ミラーに協力するも「報奨金をやるから安心しろ」と言われ、怒り出すイラク人フレディ(ハリド・アブダラ)の台詞「皆が水も電気もなくて困ってるのに報奨金だと?」は、米国の占領政策のデタラメぶりを一言で表している。
⇒【後編】に続く http://nikkan-spa.jp/810965
文/真鍋 厚