社会そのほか速
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打線の骨格が決まらない巨人・原辰徳監督(56)は10日、ソフトバンクとのオープン戦(長崎)で期待を寄せる大田泰示外野手(24)を6試合ぶりに4番に復帰させた。相手先発は9年ぶりに日本球界に復帰した松坂大輔投手(34)=前メッツ。ビッグネームを打ち込んで“長崎土産”を持ち帰るつもりだったが、この日のマウンドは試合直前まで粉雪が降るなど異例の冷え込みが襲来。故障を避けようとした平成の怪物は“超安全運転”となり、気合を込めて臨んだG打線は拍子抜けの格好だ。 (笹森倫)
昨季の日本一チームに2-2で引き分け。だが原監督に満足感はなかった。「4番がもうひとつ、ふたつというところ」。苦言は4打数1安打ながら好機で凡退した大田に向けられた。
「攻撃性を否定するわけではないが、もう少しドシッと。1ストライク目から3ストライク目まで、同じようなスイングに見える。あれでは持ち味の長打が出てこない」
相手は松坂。2得点は元メジャーから奪った。大田も1回の第1打席で右前打を放ったが、指揮官がそこに大きな価値を見いだせなかったのは、この日の右腕の出来が悪すぎたからだ。
原監督はビッグネームを打ち込むことで、打線の高揚を期待していたが、フタをあけたら拍子抜けの格好となった。
例年なら長崎市の3月の平均気温は10・9度。だが、この日は粉雪混じりの強風が舞い、正午時点で2・4度。異常に冷え込んだため、右ひじに古傷を抱える松坂の心を恐怖感が支配した。
「体の心配をしてしまった。ケガをしないようにという意識だけ。故障の経験がなければいけるんだろうけど、どうしても気になる」
ソフトバンクには3年総額12億円(推定)の大型契約を結んだ右腕を守るため、悪天候を理由に登板回避させる手があった。だが同球団関係者は「松坂の公式戦デビューは31日のオリックス戦の予定。中6日なら順番的にきょう投げる必要がある。ずらしたら他の(先発)投手にしわ寄せがくる。開幕が近づいて大事な時期だし、特別扱いはしない」と説明する。
調整とリスク回避のジレンマが松坂を、雪道を夏タイヤで進むかのような安全第一の投球に誘った。
どの球種も制球が定まらず最速は143キロ。4回まで投げる予定だったが、2回終了時に吉井投手コーチと話し合い、3回限りで“テクニカルノックアウト”に。64球を費やし、3安打3四球2失点で奪三振はゼロ。
巨人は3盗塁を決めたが、松坂がクイックモーションまで気が回らなかったため。原監督も「まあスキあらば、というところでしょうね」と喜べなかった。右腕の“超安全運転”にお付き合い、2番手以降の投手からは1安打無得点という打線の方が深刻だからだ。
同級生との再戦を楽しみにしていた村田も「元気に投げていた。まだオープン戦だし、俺がどうこういう話じゃない」と言葉少な。「ヘナチョコだった」と振り返った3回の2打席目で、140キロの高め速球に松坂からチーム唯一の空振りを喫した自身の打撃の方が、気がかりだ。
大手掲示板サイト「2ちゃんねる」が、変わるらしい。2ちゃんねるのユーザーからすると、「またか」という思いを抱くかもしれない。それほど、この数年、2ちゃんねるは騒々しい。
これまで、運営体制に何度か大きな変化はあっても、ユーザーには直接関係するような出来事はなく、関心すら持たないユーザーも多かった。しかし、今回は多くのユーザーに影響が出そうだ。
●「専ブラ」が使えなくなる?
2ちゃんねるには「専ブラ」と呼ばれる閲覧ソフトがいくつかある。専用ブラウザの略で、ログ(記録)が保存されているファイルを直接読み書きすることができる。スマートフォン(スマホ)で2ちゃんねるを利用している場合や、比較的頻繁に利用しているユーザーの多くは、なんらかの専ブラを使っているだろう。
かつての2ちゃんねるは、普通のブラウザから閲覧しようとすると、混雑時には閲覧できなくなることがしばしばあった。そのような場合でもサーバーへ負荷をかけない専ブラであればアクセスできるとして、多くのユーザーに使われるようになった。実際に、普通のブラウザよりも表示が速く、書き込みもしやすく工夫されているため、よく利用するユーザーほど必須といえるツールだった。
この専ブラが、3月中にも使えなくなるという。正確にいえば、一部の専ブラは新しい環境でも利用可能だが、多くの専ブラが使えなくなる。新環境でも使える専ブラは数が限られている上、さまざまな経緯から2ちゃんねるユーザーに嫌われている専ブラが公式ツールのように残されている。このように選択の幅が狭く、嫌われている専ブラばかりとあって、ユーザーの間では、ここ数週間物議を醸している。
●普通のブラウザで見ればよい?
専ブラがダメなら普通のブラウザで見ればいいと主張する向きもあるが、この考え方はある意味正しいだろう。一時期セキュリティリスクを懸念する指摘もあったが、ブラウザの設定でJavaScriptの項目をオフにするなどによって十分対応可能だ。軽く閲覧する程度ならば、それで十分だろう。
しかし、もし多くのユーザーが普通のブラウザからアクセスした場合、また閲覧制限がかかる懸念はある。変更後は広告表示が多くなることもあり、普通のブラウザではサーバーへの負荷は大きいと考えられる。 また、確定情報ではないが、過去ログが有料化されるという話も上がっている。単に雑談をしているだけなら過去ログは不要だが、専門性のある会話をしている場合などでは過去ログがたどれないのでは掲示板の価値が大きく低下する。
●掲示板時代の終了か、大規模移民か
過去ログの有料化やログインの必須化、書き込み時にユーザーの情報を取得する仕掛けの導入など、さまざまな話題があるが、実際にどのようなかたちで決着するのかは数カ月しないとわからないだろう。しかし専ブラについて出ている情報からは、あまり明るい未来は描けない。このままでは、ほとんど選択肢のない状態で利用せざるを得ないという不自由な掲示板になるかもしれない。そこに、従来からのユーザーが残るかどうかは不透明だ。
「2ちゃんねるもどき」と呼ばれる掲示板は、すでに複数存在する。しかし多くのユーザーを獲得できているサイトはないようだ。そんな類似掲示板のどれかが、2ちゃんねるから離れたユーザーの受け皿になる可能性はある。実際にユーザーの間でも「どこへ移動するか」といった話が多く交わされている。不自由な状態でも使い続けるか、移動するか。はたまた匿名掲示板自体を捨ててしまう人もいるだろう。
当然、人が減れば面白さも減る。2ちゃんねるを卒業したいけれど、つい見てしまっていた人にとっては、ちょうどよい卒業機会となるかもしれない。
(文=編集部)
米ウォールストリートジャーナルや英ロイター通信などの海外大手メディアが2月中旬、「米アップルが独自の電気自動車(EV)開発のために技術者を各方面から大量に雇い入れている」と報じた。その数は1000人規模に達するという。アップルがEVに興味を持っているという噂は2年ほど前からあり、シリコンバレーの地元新聞やIT系メディアで「EV専業メーカーの米テスラとアップルの幹部が接触した」と報じられていた。それが今年に入り、IT業界関係者の多くから「サンフランシスコ周辺で、アップルのEVテストカーが走っているところを見た」という証言が相次いでおり、この話はもはや噂の域を超えている。
ではどうして今、アップルは自動車産業に参入しようとしているのだろうか。
●理由その1:大きな通信端末として
情報通信と情報工学が融合するテレマティクス分野において、米国のアップル、グーグル、マイクロソフト、インテル、エヌビディア等の大手IT企業間で攻防が激しくなっている。中でも2014年1月にグーグル、米ゼネラルモーターズ(GM)、独アウディらが中核となり結成したコンソーシアムOAA(オープン・オートモーティブ・アライアンス)の影響が大きい。
OAAは二段構えの考え方で、第一段階はグーグルのAndroid OSを持つ通信端末とクルマとの接合性に関する独自ルールAndroid Autoを業界標準化する。そして第二段階として、自動車側のエンターテインメント系制御ネットワーク自体をアンドロイドOS化するというものだ。
こうしたグーグルの動きに対抗してアップルは14年3月、「スイス ジュネーブモーターショー」で自動車とiPhoneとの新しい接合方法CarPlayの実機を発表している。だが、iOSを自動車側の制御ネットワークに組み込む可能性について、アップル側はこれまで発言をしていない。
運転者や他の乗員にとって、クルマの中にいても家庭や職場と同じ環境でソーシャルネットワーキングサービス(SNS)や情報収集をしたいと思う。また、自動車にはエンジン、エアコン、ナビゲーション等向けで合計100個前後のCPU(中央処理装置)が組み込まれており、運転者の行動を知るうえでのデータが集約されている。
つまり、アップルやグーグルにとって自動車は「大きな通信端末」といえる。CarPlayとAndroid Autoは、北米で今年発売される日米欧韓の新型車に続々と採用されている。これと同時進行で、グーグルは自社でデータ収集が可能な小型EVによる自動運転車を開発中。こうした時代の流れに、アップルが同調しようとしているのだ。
●理由その2:ブランディングとして
デスクトップ、ラップトップ(ノートパソコン)、音楽再生デバイス、そしてモバイル端末を商品群とするアップル。今後は世界市場でIoT(インターネット・オブ・シングス/インターネットとモノの融合)という概念が浸透し、アップルが扱う商品にも広がりが求められる。と同時に、経済発展が見込める中国等の新興国市場では、低価格型モバイルが台頭し始めており、アップルとしては価格競争に陥らない高付加価値型の商品を継続しながら商品群の拡大を目指さなければならない。
そうした中、3月9日にアップル独自イベントでアップル・ウォッチの量産型が公開された。アップルの狙いは、最新デバイスとしての高性能さだけではない。ジュエリーや有名キャラクター等を活用して、高付加価値で寿命の長い商品性を追求している。
この商品戦略の延長上に、自動車もある。アップルとしては生産規模を追うのではなく、
高級車としてのブランド戦略を最優先するはずだ。この点では、ビッグデータビジネスを最優先すると考えられるグーグルとは目指す方向性が違うはずだ。
重厚長大型の旧来ビジネスがまかり通っている自動車業界にとって、アップルらIT系企業が持ち込む新しい自動車が、大きな衝撃になることは間違いない。
(文=桃田健史/ジャーナリスト)
ゼネラルマネジャー(GM)という役職は、日本のプロ野球では現役時代や監督時代に実績を残した元スター選手が務めることが多いが、日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)の場合は必ずしもそうではない。ちなみにスポーツマネジメントの世界では「監督に向くタイプ」と「GMに向くタイプ」は区別されている。
●スター選手ではなかったが、キャプテンシーを評価された
ヴァンフォーレ甲府(以下、VF甲府)のGMである佐久間悟氏は、1963年東京都新宿区生まれの51歳。埼玉県の城西大学付属川越高等学校では主にディフェンダーとしてプレーし、埼玉県予選の準々決勝で浦和市立高等学校(現さいたま市立浦和高等学校)に敗退した。駒澤大学に進むと関東大学サッカーで活躍して4年時には主将を務めたが、リーグ戦で下位に沈み、さらに入れ替え戦に敗れて駒大は2部に降格した。
Jリーグにおいては、「J2に降格すると、選手の流出といった戦力面だけでなく、ファンやスポンサー、自治体といったステークホルダー(利害関係者)に迷惑をかけてしまう」と話す佐久間氏は、監督としてもGMとしても残留や降格を経験した。学生スポーツとプロスポーツでは影響が違うが、すでに大学時代に降格の現実と向き合っていた。
大学卒業後はNTT関東(当時)の社員としてサッカーを続けた。まだJリーグ創設前の日本サッカーリーグ(JSL)の時代だ。「現在とは周囲のプレッシャーもまるで違う環境の中」(佐久間氏)、ディフェンダーとしてプレーし入社2年目から副将、3年目からは主将を務めた。だが椎間板ヘルニアが悪化し、28歳の若さで現役を引退した。引退後は「社業に没頭して出世をめざそうと思った」というが、大学と社会人で主将を務めたキャプテンシーを見込まれ、コーチ兼主務の声がかかり、チームスタッフとして残った。
Jリーグ創設当初は参画を見送ったNTT関東だが、大宮市(現さいたま市大宮区)など地元自治体の勧めもあって、チーム名を「大宮アルディージャ」に変えて参画を決断。佐久間氏はコーチ業の傍ら「プロ化準備室員」を兼任して、プロサッカーチームの組織づくりを進めた。45歳で退社するまで、メディアから「サラリーマン指導者」とも呼ばれた。大企業の組織人として社内外でプレゼンテーションを続け、反対意見と向き合いながら周囲を巻き込み、大宮でプロサッカーチームをつくり上げたのだ。●欧州留学で学んだ、理想のサッカーと現実の戦い
そんな佐久間氏が指導方法として目を開かされたのは、32歳の95年に社命で留学した欧州でのことだ。時系列的に前後するが、当時のNTT関東は日本フットボールリーグ(JFL=Jリーグの下位リーグ)でも下位に低迷するチームだった。そこで同氏は「チーム強化につながる理想のサッカー」を追い求めて、まずは日本サッカー界が影響を受けてきたドイツに渡ったが答えは見つからず、悶々とした気持ちのままオランダに向かい、そこでようやく見つけることができた。
それは「ダッチビジョン」という理論だった。オランダ代表監督として74年ワールドカップ準優勝、88年欧州選手権優勝を果たした名監督であるリヌス・ミケルス氏がまとめた同国の指導育成プログラムである。当時のアヤックス・アムステルダム監督だったルイ・ファン・ハール氏(現マンチェスター・ユナイテッド監督)からも身近に学んだという。
少し専門的になるが、ダッチビジョンとは「楽しませる:Enjoyment」「繰り返し練習させる:Repetition」「よい指導をする:The quality of coaching」が基本で、練習方法も「少人数での練習から始めて多人数での練習へ移行」「試合のある部分を切り取って練習する」など、実践的な指導方法だ。今では高校サッカーチームも取り入れる理論だが、20年前の日本サッカー界には新鮮だった。
オランダで学んだ攻撃的サッカーを理想に、大宮アルディージャやVF甲府の監督やフロント幹部としてチーム整備を進めてきた佐久間氏だが、予算面の制約やチーム事情といった現実と向き合う意識は高い。
「それはサッカー先進国では常識です。現在のVF甲府における戦術でいえば、理想=攻撃的にパスを運ぶサッカー、現実=守備を固めて逆襲速攻といえます」(佐久間氏)
かつて、J1に昇格した直後の大宮アルディージャ時代には、J2に再降格しないためのデータ分析をした。そこで得た結論は「昇格後2年以内に再降格した大半のチームは守備崩壊が原因」というものだ。これは現在でも変わらず、例えば昨季J1に昇格した徳島ヴォルティスはリーグ戦34試合で得点16、失点74という結果で、早々とJ2落ちが決まってしまった。
だからこそVF甲府は「昨季の総失点数がリーグ2位タイの守備力を継続した上で、ボール奪取力を高めて攻撃し、1試合平均の得点数を昨季の0.9点から1.3点に高めたい」(佐久間氏)という現実路線で今季のJ1に挑む。●サッカークラブの枠を超え、地域創生の起爆剤に
そんな佐久間氏の手法を批判する勢力もある。大宮アルディージャ時代には、試合後にサポーターが居残って抗議を続け、観客席に「佐久間辞めろ」と横断幕が掲げられたこともあった。そこでVF甲府では、より一層、交流に力を入れている。例えば、チームのサポーター組織の代表とは2カ月に1度話し合いを行い、クラブの最新情報を伝えながら本音の意見を交換している。もちろん、選手との対話も重視する。
「個人面談では、本人のパフォーマンスを基に期待する役割や要望を伝え、クラブの財政状況など情報も開示します。不満や要望にも耳を傾け、チーム全体の改善につながる話はできるだけ希望に沿うよう動きます」(佐久間氏)
現在の佐久間氏は、VF甲府のブランドイメージ向上の活動にも携わる。これも同氏の発案が多く、「地域創生の起爆剤として、サッカークラブの枠を超えた存在になりたい」との思いからだ。
例えば、「東南アジア市場の開拓」もその1つ。1月28日には建設機械の製造・販売を行う地元企業の日建とパートナーシップを結び、東南アジア諸国でサッカー教室などの国際交流を開くことを発表した。サッカー教室は国内で実施する方式の応用版だ。佐久間氏は「これが定着すればミクロの視点では引退後の選手の雇用も期待でき、マクロの視点では、アセアン諸国におけるオール山梨の取り組みにつながります」と語る。
●GMに求められる資質
最後に、話をチーム強化におけるGMの役割に戻すと、同氏に教えてもらった「GMに求められる5本柱」がユニークだ。JリーグのGM講座で英国リバプール大学を訪れた際、最初の授業でローガン・テイラー教授が語った言葉だそうだ。
(1)GMは「教会で働いている」と考えなさい
(2)クラブチームが「何を売り物にしているか」を考えなさい
(3)プロサッカークラブは「関係者に苦悩を提供している」と理解しなさい
(4)サポーターが「あなたを嫌っている」と理解しなさい
(5)それでも「サポーターと結婚しなさい」
それぞれ補足すると、(1)は社会奉仕の精神で、今の仕事はあなたが偉いのではなく、神から与えられているもの。(2)と(3)は観客に喜びと同時に失望感や悲しみといった苦悩を売っている。(4)は熱心なサポーターほど「自分がやったほうが成績はよくなる」と思っている。(5)はそういう人たちをすべて許して、その人たちに寄り添いなさい――というものだ。
佐久間氏の意識の片隅にはこれがあり、物事を進める場合は「未来志向」で考えるそうだ。未来志向とはロマン追求にもつながる。同氏は、吉田松陰の「夢なき者に理想なし、理想なき者に計画なし、計画なき者に実行なし、実行なき者に成功なし。ゆえに、夢なき者に成功なし」という言葉が信条だという。
1月10日付当サイト記事『瀕死のドラゴンズ、ファンもあきれる…不可解な契約更改、デタラメな球団経営&人事』は、プロ野球におけるGMの役割を読者が考える機会となることを願って寄稿した。今回のJリーグのGMは、その続編的位置づけである。地域財産であるプロスポーツの健全な発展のために、球団やクラブのGMが「関係者に苦悩を提供する常識人」であってほしいと願っている。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)
震災から4年経った今でも、被災地でささやかれる幽霊の目撃談。
その正体を追った本誌記事「NHKも取り上げた被災地の“心霊体験”はまだ終わっていなかった」(http://wpb.shueisha.co.jp/2015/03/09/44659/)には大きな反響が寄せられた。
災害社会学や災害情報論を専門とする日本大学文理学部社会学科の中森広道教授が行なった調査では、上記で紹介した他にも以下のような多くの体験談が寄せられている。(13年12月に行なった『「東日本大震災」に関する流言・うわさ・前兆現象ならびに都市伝説に関する調査』より。具体的な地名は編集部で伏せさせていただきました)
●津波から逃げているのか、建物に走って入る幽霊の話を挙げたらきりがないほど聞いた。何度も同じことを繰り返し続けているらしい。
●某所に打ち上げられた貨物船には幽霊が出るといわれている。
●震災から1年経過したとき、O町の実家で故障でもないのに蛍光灯がまだらに点灯し始め、最後に行方不明の親戚(役場職員)の顔の輪郭のように光った。
●多くの方が亡くなった市の施設から声が聞こえる。
●某所ではタクシーに乗り込む幽霊が頻繁に出ると聞いた。「私、死んだんでしょうか?」と尋ねてくるとのこと。
●夜、車で走っていると大勢の人に囲まれ動けなくなった。
●遺体安置所になった体育館から、うめき声が聞こえると近所の人たちが言っている。
●海沿いのコンビニでお化けが出るという噂があり、それが原因で閉店してしまったらしい。
●行方不明の子供が夢に出てきて、親が夢に出てきた場所に行ったら、遺体を発見した。
●某所の小学校近くで火の玉が飛んでいて、助けを求める声がする。
このような「震災怪談」に、あなたはどのような感想を持つだろうか?
先の記事では、ネット上でも実に様々な反応が寄せられた。「自分や知人も体験したことがある」「幽霊であっても家族と再会したい」「亡くなった方のご冥福をお祈りしたい」など肯定的な感想が多かった一方、「震災の犠牲者の幽霊話なんて不謹慎では?」という戸惑いも少なからず見受けられた。
なぜ日本人はこうした怪談を語り継ぐのか? 震災の犠牲者と怪談を結びつけるのは不謹慎なのか? そこで、怪談文芸雑誌『幽』の編集顧問で、古今東西の怪談に詳しい文芸評論家・東雅夫氏に聞いた。
―被災地の怪談に、どのような感想をお持ちですか?
東 肉親との絆を確かめたり、無念な思いを伝えたりするために現れる話が多いように感じます。人を怖がらせたり、驚かせたりしない、ジェントル(優しい)ゴーストストーリーと呼ばれる物語ですね。
―幽霊を目撃した人たちは怪談を語っているという感覚はあるのでしょうか。
東 おそらくないと思います。ただ、幽霊でもいいから理不尽に奪われた大切な人の存在を身近に感じたいというのは自然な感情でしょう。
―東さんは震災後も「みちのく怪談コンテスト」を催されましたが、「震災怪談」は不謹慎なのではという声もあったのでは?
東 幸い批判はほとんどありませんでしたが、怪談にはおどろおどろしくて興味本位という偏見があります。不謹慎なのでは、という人の気持ちもわからないではありません。
ただ、私は「慰霊と鎮魂の文芸こそ怪談である」と思ってますし、慰霊と鎮魂は必ずしも神妙な顔でやらないといけないものとも思ってません。
―どういうことですか。
東 日本人は様々な局面で死者を慰霊、鎮魂して共存を図ってきました。日本を代表する古典芸能の能楽や歌舞伎も同じだと思いますし、私たちが子供の頃、お化け映画と呼び、怖いもの見たさで足を運んだ怪談映画の根っこにも慰霊と鎮魂があるんです。
『四谷怪談』や『累ヶ淵(かさねがふち)』『番町皿屋敷』。どれも理不尽に殺された犠牲者がお化けになって復讐(ふくしゅう)するという似たような筋書きですが、それを何度も繰り返し見て怖がることで、お岩さまや累さん、お菊さんら非業の死を遂げた者の思いを共有するわけです。
―エンターテインメントも含めて慰霊と鎮魂である、と。
東 はい。盆踊りの風習がまさにそうです。お盆の時期は、玄関先でたいた迎え火を目指して死者が戻ってくるといわれています。古い風習が残る地域では手ぬぐいや笠で顔を隠して踊ります。踊り手が誰かわからなくするために顔を隠すのですが、もっといえば、誰かどころか生者か死者かもわからなくする。つまり、夜を徹して生者と死者が歌い踊り交歓するわけです。
―最後に、幽霊の存在をどうお考えですか。
東 見たことがないので「いる」とは言えませんが、古くからこれだけ体験談や目撃談が本当にたくさん残っているのですから「いない」とはもっと言えないでしょうね。怪談というと荒唐無稽(こうとうむけい)に思われがちですけれど、それでは誰も怖がりませんし、残っていかない。
地域の記憶をリアルに切り取っているから皆怖がるし、語り継がれるわけです。優れた怪談には、時代の空気や普遍的な人の思いが映し出されているんです。
●東雅夫(ひがし・まさお)
1958年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。文芸評論家、アンソロジスト。怪談専門誌『幽』編集顧問。著作に日本推理作家協会賞を受賞『遠野物語と怪談の時代』のほか、『妖怪伝説奇聞』『なぜ怪談は百年ごとに流行るのかs』など多数