社会そのほか速
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ついに日経平均株価が2万円を超えたが、それでも市井の人々には「景気が良くなった」という実感がある人はまだ少ない。その大きな理由は、停滞する地方経済にある。
たとえ株価が上がっても人口減少、人材育成の困難さ、グローバル競争などといった数々の問題にさらされ、日本全体が元気になる日は遠いように感じられる。
こうした閉塞感を打破するヒントは、どこにあるのか。最先端の高齢社会対策プロジェクト「首都圏2030」に携(たずさ)わるふたりの論客、実業家で投資家の山本一郎氏と、文部科学大臣補佐官の鈴木寛氏に聞いた。
* * *
山本 今回の統一地方選、「自民・公明対民主」のガチンコ対決だった北海道と大分県の知事選で、いずれも主要な論点にきたのが景気・雇用です。地方に産業が誘致できない、あるいは誘致しても雇用に結びつかない。産業政策の転換の失敗で、求められる人材の育成が行なわれていないという部分が全部、地方にかぶさっています。
鈴木 まさにそうですね。ちなみに全国47都道府県中、その北海道と大分を含む17道県は大学進学率が30%台。失礼な比較になるかもしれませんが、フィリピンの全国平均は約40%です。
また、1990年には日本、韓国、オーストラリアはいずれも35%前後でしたが、現在の日本は約50%、韓国は約70%、オーストラリアは約90%。タイも約55%と日本の上です。これで日本がやっていけますか。
山本 この20年で、一気に差が開きましたね。
鈴木 続いて、全従業員に占める高等教育(大卒以上)修了比率を見ると、かつて日本を支えた製造業は約40%。ところが、これから伸びるICT(情報通信技術)分野は約95%、医療介護分野は約90%という数字です。
山本 大学で意味のある勉学をしないと話にならない。しかし、まだ製造業時代の考え方が根強い地方にその認識があるのかという問題ですね。
鈴木 もうひとつ、グローバル化で今後有望なのは観光業ですが、世界の一流ホテルマンはみんな大学院を出て修士号を持っているんです。
山本 日本が様々な観光資源で外貨を稼ごうといっても、それをエスコートできる人材が育成できていない。
鈴木 今後の観光業は、英語は当然でさらにプラスαのコミュニケーションが必要です。例えば、地域によっては中国語が必須。自分たちの地域は誰がお客さんなのか、逆算して人材育成しないといけない。
山本 場合によってはロシア語も必要になる。日本でロシア語ができる層は圧倒的に少ないので、その語学に折衝能力があれば産業界は間違いなく採用しますよ。私はある程度しゃべれるので、いろいろな場面で重宝されます。
鈴木 地域の特徴に合わせた語学の重要性なんかを、例えば北海道の高校生に教えてあげなきゃいけない。ところが現在、第二外国語は大学受験では評価されなくなりました。2040年、50年あたりにはアフリカの人口増加もあってフランス語圏の人口が英語圏を超えるというのに。
山本 鈴木先生は以前、民主党の参議院議員をされていましたが、今年2月から自民党政権下で文部科学省の大臣補佐官に就かれました。大きな心境の変化といいますか、決断に至ったお考えがあったと思うのですが。
鈴木 日本にはもう残された時間がない、瀬戸際だという認識からです。2020年、私が招致に携わった東京五輪の後に大きな分岐点がくる。それまでに2012年から始まった教育改革を推進し日本は大きく変わっていなくてはならない。
これまで日本は「ものづくり」の工業社会、ハードパワーの国でしたが、今後はICTやスポーツ、文化などソフトパワーの国に変わる必要があります。変革のカギは教育。このたび文科省の仕事を引き受けたのも私の中では極めて自然な流れです。
山本 これからの日本社会に求められる人材は、従来とは全然違うものになると。
鈴木 戦後日本の教育はマニュアルを正確かつ高速に再現する人材育成でした。しかし、それが世界的に通用したのは1980年までの話。とっくに変わっていなくてはいけなかったんですが、惰性でそのままの状態が…。
山本 もう35年近くも変わらず続いている。
鈴木 しかし、長年依存し続けた家電産業がいよいよもたなくなり、辛うじて残っている自動車産業だけで引っ張るのはもう難しい。
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従来の“ものづくり”とは違う産業を生み出すためには、それを創造し支える人材をまず育成しなければならない。だが、そのためには日本の教育に対する考え方を根本から変える必要があるということだ。
鈴木氏が言う「大きな分岐点」の2020年まで、わずか5年。時間はほとんど残っていない。
(構成/佐藤信正 撮影/髙橋定敬)
■週刊プレイボーイ17号「今の選挙制度と民主主義は高齢化社会では機能しない!」より
4月に入り、不動産、特に賃貸住宅の市場は1年で最も忙しい時期がひと段落つき始めています。大学や専門学校の新入生、また新社会人など、たくさんの人が新生活に向けて新居に移り住んだことと思います。
ピークを過ぎたとはいえ、まだこれから部屋を探す人も多く、5月のゴールデンウィークまでは、賃貸住宅市場にとっては、それなりに慌ただしい日々が続きます。
さて、賃貸住宅を探す際、今はまずインターネットで探すのが主流で、特に20~30代では、ほとんどの人がネットで検索しているといわれています。その後、気になる物件を扱っている不動産業者へ連絡を入れたり現地を訪れたりと、バーチャルからリアルな行動へと移っていきます。
今回は、繁忙期後の不動産情報に関する気を付けるべき点をご紹介します。不動産業者は、繁忙期に物件情報を大量に取り扱うため、ネットに掲載した情報の一部を忙しさのあまり“うっかり”更新し忘れてしまっていることもあるものです。不動産関係の人に再確認していただきたい一方、賃貸住宅を探している人も気を付けなければなりません。
例えば、入居者が決まってしまった物件情報をそのまま掲載し続けてしまうと、故意でなくても「おとり広告」になってしまいます。意図的に、ありもしない魅力的な物件を掲載して問い合わせや来訪を促そうとするのは、もちろん悪意のおとり広告なので論外ですが、うっかりでもおとり広告となるのが重要なポイントです。
不動産業者はほとんどが直接、または加盟する協会を経由して不動産公正取引協議会(以下、公取協)という組織に加盟しています。この公取協が、不動産業界の自主規制ルール(公正競争規約)を運用していますが、この自主規制では「公取協がおとり広告と認めた場合、違反内容によって厳重警告や違約金が課される」とされています。また内容によっては、加盟する協会からの処分や不動産情報サイトに掲載できなくなるなどの措置があるなど、かなり厳しく規制されています。
実際、今までに多くの不動産業者が公取協からルール違反を指摘され、違約金を課されているという話を聞きます。これだけ厳しい措置があるということは、逆に、それだけおとり広告が多いということでもあります。●おとり広告を見破る方法
そのため、賃貸住宅を探す人は、こうしたおとり広告につかまらないようにしてほしいと思いますが、その見分け方は難しく、単純にネット上の情報を見ただけではわかりません。
しかし、ネット上で物件情報を見る場合に、次の2点を注意すればある程度はおとり広告につかまらないようにすることはできます。
(1)更新日付に注意する
本当に良い条件の物件はそれほど長く掲載されませんから、情報掲載日または更新日が古ければ注意が必要です。
(2)複数の不動産情報サイトで確認する
同じ物件情報が複数の情報サイトに掲載されていた場合に、どれか一つでも「成約済」などの記載があれば、すでにその物件は決まってしまっている可能性は高いと考えられます。
しかし、最も良い方法は、掲載している不動産業者へ電話で確認することです。そこで「すでに決まっている」「もっと良い物件がある」など、その物件の話をせずに他の物件を紹介しようとする場合、おとり広告の可能性が高いので要注意です。
そこから先は、冷静な判断が必要です。その問い合わせがきっかけで、本当に良い物件を紹介してもらえる場合もあるとは思いますが、おとり広告を出した可能性がある業者と付き合うのでしょうか。筆者は、厳しく規制されているおとり広告を行っている可能性がある業者とは取引しないほうがいいと考えます。
物件情報は賃貸住宅を探すうえで大事な情報です。その情報を大事に扱っているかどうかは、重要なポイントです。住宅選びは、物件を選ぶ以上に取り次いでもらう業者を選ぶという意識で見るといいでしょう。
(文=秋津智幸/不動産コンサルタント)
法人実効税率は2015年度から32.11%に、16年度から31.33%に引き下げられる。安倍晋三政権の成長戦略の一環として、外資企業を誘致するためだ。確かにシンガポール(17%)やイギリス(23%)などと比較し、日本の法人税の水準は低くはない。国際競争力をつけるためには、20%を目指さなくてはならないだろう。しかし、このたびの法人減税には異論も多い。
「今回の法人減税は実施すべきではない」
3月25日、参議院本会議で代表質問に立った民主党の尾立源幸議員は、安倍政権の法人減税政策に疑問を呈した。理由は、2年間の法人減税先行により4120億円の歳入欠損が生じることに加え、復興特別法人税の廃止でさらに6453億円が減税され、合計1兆円が歳入削減になることだ。
財務省は15年度予算で、前年度に比べて4.5兆円の増収を見込んでいる。これなら1兆円の法人減税などは、容易に増収分で吸収できるように思える。何より安倍政権の経済政策は、企業の業績を向上させることによって賃金上昇を実現することを目指しているのだから、この減税分はやがては国民に広く及ぶことになる。だが、その通りに事が運ぶのだろうか。
実際にその内容を見ると、「いびつさ」があることは否定できない。尾立氏は、それを指摘している。
「昨年、個人の負担、すなわち復興特別所得税は残したまま、復興特別法人税だけ前倒しして廃止した。(略)そもそも復興特別税は、『復興を国民みんなで成し遂げるために財源もみんなで負担しよう』と決めたものだ。これを無視して企業を優遇しようという安倍政権の姿勢は正しいのか」(尾立氏)
さらに、減税の恩恵を受ける法人間にも偏りが見られる。特定分野の産業への優遇が目立つのだ。13年度分の財務省「租税特別措置の適用実態調査の結果に関する報告書」によれば、製造業の税額控除案件は1万8058件で、適用金額は5879億円。1件あたり3256万円の計算になる。その中でも輸送用機械器具製造業については、1255件に対して2338億円も適用され、1件あたりの適用金額は1億8629万円と断トツに高額になる。
一方でサービス業では、税額控除案件は1万3290件と製造業の74%だが、適用額は212億円と製造業の3.6%にすぎない。1件あたりの適用金額160万円と、製造業に比べて極めて低い水準だ。
これを見ると日本は近代以降、重厚長大産業に対して保護を与えて輸出を増やして「富国」を目指してきたが、いまだにその傾向は続いているといえる。
となれば、「外国企業を誘致するための減税」という名目自体にも疑念を感じざるを得ない。
(文=安積明子/ジャーナリスト)
コンビニエンスストアで売られているパンの原材料欄には、見たことも聞いたこともない化学物質が大量に書かれています。「リン酸塩はカルシウムの吸収を阻害し、防腐剤は発がん性がある」といった記事も見かけますが、コンビニパンを食べて障害が起きる確率は極めて低く、まったく問題ありません。
どうしてそんなことが言えるのでしょうか?
“フードホラー”ともいうべき食べ物に関する誤った情報が氾濫していますので、今回は食品添加物を正しく理解するための思考法を解説します。
●添加物の毒性
まず、インターネットで添加物について調べると、「発がん性がある」「腫瘍ができた」「~の吸収を阻害する」といった情報が大量に出てきます。もちろん、これらの情報の大半は嘘ではありません。事実だと考えられます。
しかし、ここで大きな勘違いが起きるのです。十分な施設の整った研究機関で、正しい手順で実験を行った結果として得られた毒性に関する情報は、「この分量を使うと危険が生じる」ということを示しています。食品に混合する化学物質については、人が摂取しても安全かどうか、どのような毒性があるのかをすべて調べています。さまざまな動物に、大量の化学物質を投与し、毒性が出るまで調べます。
どんな化学物質でも、大量投与すれば、必ずなんらかの害が出ます。水でも一気に10リットルほど飲めば死ぬのです。また、食卓塩も一度に100グラムほど食べると、死ぬ可能性があります。動物実験では、もっと少量で死に至ることもあります。
このような情報を耳にして、「水や塩は猛毒だ」「人を殺す物質だ」と騒ぐ人はいないでしょう。あらゆる物質には、摂取できる限度があるということなのです。
これに対し、「ほんの少しでも含まれていると、大量投与した場合と同じ害がある」と言うことは、明確にインチキだといえます。これがフードホラーを煽る人の商売の種なのです。
●添加物は本来不要な化学物質?
そうはいっても、食品添加物は本来食品には不要なものであって、体に必須の水や塩と比較するのがおかしいという考え方は正常です。 確かに、ポリリン酸○○、ソルビン酸○○、○○ガム、増粘剤、pH調整剤など、耳慣れない成分が食品表示欄に記載されていれば、不気味に思うのもわかります。
しかし、大半の添加物を個別に知ると、それぞれのメリットがあってこそ使われていることがわかります。当たり前ですが、食べた人を病気にするために添加されているわけではありません。
添加物は、天然に含まれている成分も多く、例えば、猛毒と恐れられている亜硝酸ナトリウムも、元々は岩塩の中に多く含まれている成分です。岩塩を入れてソーセージをつくると発色が良くなり、食中毒が起きにくいという先人の知恵から得られたものです。岩塩に含まれる亜硝酸塩が食中毒を防ぎ、発色を良くしていたのです。そこから研究が進み、安全な分量を確認した上で食品に添加されているのです。
この安全な分量はADI(Acceptable Daily Intake:一日摂取許容量)と呼ばれ、生涯にわたり毎日摂取し続けても影響が出ないと考えられる一日当たりの量と考えられているものです。謎の化学物質がむやみに添加されているわけではなく、すべて目的があり、安全な量の範囲内で使用されているのです。
●食品添加物は危険ではない
酸化防止剤やpH調整剤は、消費者が適正に保存し、衛生的な環境下で食べる保証がないからこそ、食中毒のリスクを下げ、品質が悪くなりにくくするためにわざわざ添加しているのです。もちろん、手を抜いて簡単に味をととのえ、栄養価も低い商品を売りつけて利益を上げることもできますが、そのような企業姿勢と毒性があるかどうかは別問題なので、今回は毒性にだけスポットを当てて論じます。
名前の印象から、「気持ち悪い」「危険な気がする」というのは単なる感情論で、それに便乗して「怖い」「危ない」と騒ぐのは、文明人としていかがなものかと筆者は述べたいのです。
研究者が解き明かしたからこそ、正しく使えば食中毒のリスクを下げ、また発色を良くし、日持ちさせられるのです。すべては、消費者がずぼらに管理しても「それなりに良い物」を食べられるように使用されているということを覚えましょう。 食品添加物は、添加物という概念がない時代から人類が編み出した、食品加工技術の一端です。そもそも、「100%安全」と言い切れる食べ物など存在しません。街中を歩く場合も、絶対に車にひかれないという保証はありませんが、自分がルールを守っていれば事故に遭う確率は低いので、無駄に恐れることなく町を歩けるのです。「添加物が怖いからコンビニパンを食べない」と言うのは、「交通事故が怖いから外出しない」と言っているようなものなのです。
では、「自作農園でつくった野菜なら絶対安心」といえるでしょうか。例えば、通りすがりの誰かが畑にタバコの吸い殻を捨てただけで、出荷できないレベルの毒性を含む野菜となる可能性もあります。もしかしたら、使用した肥料が粗悪な製品で、危険な毒を含んでいるかもしれません。野菜を育てる前に使用した除草剤が発がん性物質を含んでいたなど、危険性に関して可能性を言い出すとキリがないわけです。
「たられば」をすべて恐れてリスクを拒否すると、不必要に高い商品を売りつけられるカモになってしまうこともあります。生きていくためには、リスクをすべてなくすことはできません。賢く判断することが必要であり、そのためには「何を信頼するか」という目利きの基準を持つことが重要になります。
食品添加物に限れば、日本人は平均して年間で赤ちゃんの頭の大きさほどの量を摂取しているといわれていますが、それでも毎年平均寿命が延びていますから、食べたらすぐに危険が生じるということはないと考えられるのではないでしょうか。
添加物の使用量が増えるにつれ、死亡者が激増しているというデータがあるわけでもなく、添加物を怖がることは理論的とはいえません。
(文=へるどくたークラレ/サイエンスライター)
いま、ロボットに注目が集まっている。といっても、ソフトバンクのペッパーのような人間の形をしたおしゃべりロボットではない。私たちは手塚治虫原作のSF漫画『鉄腕アトム』以来のコミックの影響を受けてか、ロボットというと、つい人間型のヒューマノイドロボットを思い浮かべてしまう。だが、いま第四次産業革命をもたらすと期待されているロボットは、AI(Artificial Intelligence:人工知能)を備えた機械、器具、装置と考えたほうがいい。
人類の歴史上4回の産業革命を、それぞれ象徴するキーワードでまとめれば、18世紀末の第一次産業革命は蒸気機関、次いで18世紀末から20世紀にかけての第二次産業革命は石油、化学、そして電化(電気の利用)。1970年代からの第三次産業革命はコンピュータやインターネットに代表されるデジタル革命。そして、いまロボットが第四次産業革命を引き起こそうとしている……といった記事がビジネス誌を賑わせている。
その中で、妙に納得させられる記事があった。英デイリー・テレグラフ紙に掲載された『インターネットは生産性を向上させることはなかったが、ロボットは生産性を向上させるだろう』というタイトルの記事だ。
「過去20年間における最大の技術進歩は何か」と問われたら、大半の人はネットだと答えることだろう。なぜなら、私たちの日常生活に大きな変化をもたらした技術だからだ。「アラブの春」のような歴史的イベントを引き起こしたこともあって、ネットの力を過大評価する傾向もある。だから、それが生産性を向上させなかったどころか、どちらかというと生産性を下げたといわれると、ネットを生産性の観点から考えていなかったことに気がつく。
考えてみれば、Eメールで仕事のやりとりが便利になった面もあるが、やたらCCのついたメールが届くようになり、過剰な情報に振り回されるようになったきらいはある。そのうえ、FacebookやTwitter、あるいはLINE のようなソーシャルメディアが、職場での生産性を下げている具体例もよく耳にする。職場ではネットを個人的に利用しない人でも、日常生活においては、ソーシャルメディアやゲームにかなりの時間を費やしており、ネット中毒とまではいかなくても、生活に時間の余裕がなくなっている人は多いはずだ。
ネット上での交流やゲームが楽しみや癒やしになっている人は、「暮らしの中での生産性を考えるのは、ばかばかしいことだ」と思うかもしれない。振り返ってみれば、50年代にテレビが登場した頃も、「子供が勉強しなくなった」「主婦が怠け者になる」などと批判が相次いだ。反対に、50年代に一般家庭に普及した電気洗濯機は(その他の家電製品と一緒になって)家事に費やす時間を大幅に減らし、女性が仕事を持ち、社会進出する促進要因のひとつとなった。このことから、暮らしの中において電気洗濯機は個人の生産性を向上させ、テレビは下げたと比較することはできる。 ネットはテレビみたいなものなのだ。「アラブの春」に象徴されるように、ソーシャルメディアは多くの人を結びつける。「ネットが革命をもたらした」と、あまりに騒がれたために、私たちはネットがメディアであること、つまり何かと何かを結びつけることが役割であるという事実を忘れていた。人が集結した結果が民主主義に結びつかなかったのはネットのせいではなく、結びついたあとのフォローができなかった人間のせいなのだ。
●ネットとモノの結びつきによる生産性の向上
ネットに生産性が認められるようになったのは、つい最近、モノ(物理的世界)と結びついたIoT(Internet of Things:モノのインターネット)が注目を集め始めてからだ。さまざまなセンサーを装備したモノが、ネットによってコンピュータに結びつき始めたのだ。
例えば、ゼネラル・エレクトリック(GE)は140万の医療機器と2万8000基のジェットエンジンに対し、合計1000万個のセンサーを取りつけ、日々5000万件のデータを収集し分析している。これにより、総額1兆ドルの資産である設備や機器を効率よく安全に稼働させ、機械の維持や事故を未然に防ぐのにも役立てている。
ネットは、モノに結びついて初めて実質的な、他産業に波及する経済効果をもたらすことができるようになったと聞くと、ある意味ホッとする。デジタルな世界にとどまったままのネットビジネスで富を得たのは、GoogleやFacebookといった企業と、その創業者に限られていたからだ。私たちはネットという目に見えないヴァーチャルなものの威力を、力のスケールという意味では過小評価し、力の本質という意味では過大評価していた。
ネットは、私たちの生活に便利さという素晴らしい贈り物を提供してくれた。しかし、ネットが物理的世界とつながることなく、ヴァーチャルなデジタル世界だけで物事を完了している限りは、社会の不安定さを増長する傾向がある。
例えば、2008年に金融危機が発生した要因のひとつに、ネットによる過剰な相互結合や相互依存を挙げることができる。ネットが存在していなかったら、信用危機の問題は発生したであろうが、その地域範囲も規模も限られたものになっていたことだろう。ネットによって「ポジティブフィードバック」と呼ばれる、株価が上がれば追随して買い株価が下がれば追随して売る投資行動が瞬時に全世界に感染伝播した。
本来なら株価が上がれば多くの投資家は株を売る。こういったネガティブフィードバックによって株式市場は自己調整がなされ、常に均衡が保たれる。ところが、ポジティブフィードバックが発生するとどうなるか。他人の行動に釣られて理性的に判断することもなく、株価が上がった時にその株を買い、株価が下がればその株を売るという異常な状況に陥る。株でも土地でもチューリップでも、投資行動にポジティブフィードバックが発生するとバブルが起こる。 情報がデジタル化された金融サービスに、これまたデジタルでヴァーチャルなネットが結びついた結果が、08年の金融危機だといっても過言ではないだろう。こう考えると、ネットがリアルな物理的世界と結びつくことで初めて生産性を上げることができるようになったという事実は、社会の健全性を証明するようで、なんだかホッと安心できるのだ。
●ロボットは生産性を上げる?
ここで、「ネットと違ってロボットは生産性を上げる」という、そもそものテーマに戻そう。
『機械との競争』(著:エリク・ブリニョルフソン、アンドリュー・マカフィー、訳:村井章子/日経BP社)に代表されるように、「技術(イノベーション)は常に雇用を破壊する」という考え方もある。もっとも、ブリニョルフソンは「技術は常に雇用を創出する」とも述べている。ただし、最近はデジタル技術のあまりに急速な進化のゆえに、それについていけない多くの人が仕事を失うようになったとも書いている。
IT分野の大手調査会社ガートナーは、10年以内に現在の仕事の3分の1は自動化によって失われると予測している。ボストンコンサルティングが今年2月に発表した調査結果では、世界の25の製品輸出大国において、製造業における自動化は労働コストを平均16%押し下げるであろうとしている。韓国、中国、日本、ドイツ、米国の5カ国で世界の産業用ロボット購買数の約80%を占めているが、これらの国では25年までに自動化機能の25%をロボットが分担するだろうとしている。また、同調査は、最先端のロボットテクノロジーへの初期投資は大きなものだが、長期的に見ればロボットの運用維持費用は、先進国で人間を雇用するよりも安くつくだろうとしている。
●人間は機械との競争で仕事を失う?
米国シカゴ大学がトップクラスの経済学者にアンケート調査したところ、88%が歴史的に見て、自動化がアメリカの雇用を削減することはなかったと答えている。自動化によってコストが削減され価格が下がることによって需要が伸び、結局は仕事が増えるということもある。また、自動化によって製造業に関わる仕事が増えることはないかもしれないが、その分ほかのタイプの仕事、例えば、メカトロニクス(機械工学と電子工学を合わせた造語)エンジニアのように5年前には存在しなかった仕事が増えるということもあるわけだ。
高齢化、少子化の進む先進国、その中でも先端を行く日本にとっては、機械に仕事を奪い取られる心配よりも、ロボット工学の進歩が人手不足の解消に役立ってくれる可能性に明るさを見いだすことができる。ボストンコンサルティンググループ会長のハンス・ポール・バークナー氏は、日本経済新聞のインタビューで、「日本は人口減の問題を移民ではなく、自動化によって乗り切ろうと選択しているように見える」と答えている。 人手不足が心配されている介護事業でも、マッスルスーツのような装着型ロボットなどにより介護される人間の自立を促すことができるし、また腰痛を抱える高齢者でも他人を介護することが可能になる。年を取ったらできなくなると見なされていた肉体労働も、装着型ロボットの利用で、50歳を過ぎても続けることができる。視力の衰えや手先の震えをロボットで補うことによって、ベテラン外科医の労働寿命を延ばすことにつながる。自動運転自動車が普及すれば、運転手の人手不足も解消できる。
多種多様なパーソナルアシスタント機能を持った生活支援ロボットは、高齢者や子育て中の母親など、従来は職場から離れていく人たちをも仕事場に戻す役割を果たしてくれる。
「年をとっても働かされるのか」と嘆く人もいるかもしれないが、日本人は仕事に生きがいを見いだす人が多い。そういった人たちにとって、ロボットは大きな希望を提供してくれる可能性がある。
「ロボットが人間に取って代わる」と懸念されることも多い。確かに、人件費の安さで産業誘致をしている開発途上国では、そういった問題もあるだろう。しかし、日本の場合は悪影響よりも好影響のほうが大きいだろう。少子化や高齢化問題で暗くなるのはまだ早い。
話は変わるが、長崎のハウステンボスが、ロボットが接客する「変なホテル」を今年の7月に開業すると発表している。今の段階では、ペッパーを接客に採用する予定の日本ネスレと同じように、ロボットは客寄せパンダ的要素が強い。それでも試行錯誤を繰り返しながら、AIが進化していくロボットをサービス業でも利用する動きは進んでいくことだろう。
筆者は、今より高度なAIを持ったペッパーが、いわゆるモンスター顧客にどう対応するかを見たいものだと思う。「土下座しろ」と要求されたら、どうするのか。ロボットに対して強要した場合も、客は逮捕されるのか。テレビCMでのペッパーは、俳優の北大路欣也に対して生意気に言い返しているが、実際にロボットに言い返されたら腹を立て、客は手を上げるかもしれない。その時、ペッパーは反撃に出るのだろうか。それとも暴力は感情がもたらすムダな行動と見なし、無視するのだろうか。楽しみである。
(文=ルディー和子/マーケティング評論家、立命館大学教授)