社会そのほか速
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
2014年12月末の発売時において日本初のFirefox OS内蔵の携帯端末としてデビューしたFx0。吉岡徳仁デザインの中身が透けて見えるクリアボディーは、未来のクリエイティブのオープン性を予感させる。では、実際にこれで何ができるのか? と問われると、専門家でない私たちにはちょっと手に余る。Fx0が見せてくれる未来とはいかなるものか? そこで、今回話を聞きに訪ねたのはdot by dot inc.のファウンダーであり、プログラマーのSaqoosha(さくーしゃ)さん。上野の森美術館で大きな話題を呼んだ『進撃の巨人』展で、Oculus Rift(バーチャルリアリティーに特化したヘッドマウントディスプレイ)を使って40人が同時体験可能な3Dシアターを制作し、テクノロジーとエンターテイメントの新たな融合を見せた彼ならば、Fx0の魅力を引き出してくれるに違いない(実は取材日に先んじて、彼にはFx0実機を送っておいたのだ!)。クマをかぶったプログラマーはどんな未来像を見せてくれるだろうか。胸を高鳴らせて、dot by dotの扉を開く……!
【もっと写真を見る】
■Windows95がリリースされたときに、プログラミングの他に画像的なものが求められるようになって、インターネットがますます楽しくなりました。
―今回のSaqooshaさんインタビューを皮切りに、3名のクリエイターにFx0について聞く連載が始まります。ただ、いきなり「Firefox OS」や「HTML5」と言われても、プログラミングに詳しくない人からすると「?」という感じもある。そこで最初にうかがいたいのですが、SaqooshaさんはFx0をどんな携帯端末だと感じましたか?
Saqoosha:実機を触ってみましたが、面白かったです。ハードウェアをコントロールする部分においてもJavaScriptのAPIがそろっている。たいがいのことはこの中で、ウェブコンテンツを作る感覚で作れると思います。
―えっと……。
Saqoosha:これで「何ができるか?」というと、ウェブの技術を使ってアプリを簡単に作れるんですよね。アプリを作る技術と、ウェブコンテンツを作る技術はまったく違うので、これまでアプリ開発のハードルは高かった。でもFx0を使ってみると、本当に簡単に作ることができたんです。
―初心者まるだしなのですが、そもそもウェブコンテンツとアプリの制作環境は違うんですね……!
Saqoosha:実はそうなんですよ(笑)。それで実際にこんなの作ってみたんです。dot by dot inc.(Saqooshaらが設立した会社)のウェブサイトで使っているデザインを、Fx0のロックスクリーンに移植してみました。
―おお! ドット模様がアニメーションしてる!
Saqoosha:アプリの作り方は2つあって、端末に内蔵されたアプリに機能が全部入っているものと、外のウェブに接続して機能するものがあって、これは後者ですね。もともとウェブサイトのために使っていたコードを、ほとんど変えずに持ってきました。
―こういうのが見たかったんです!
Saqoosha:(笑)。ロックスクリーンにURLを指定できる機能があるので、すごく簡単にできますよ。
―アルゴリズムで色とかたちのパターンが変わるんですね。あ、1つだけクマ耳のついたドットが!
Saqoosha:そこは自己主張を入れてみました(笑)。
―Fx0の開発環境などについては後半でまたうかがうとして、ちょっとSaqooshaさんの活動についても聞かせてください。プログラミングやコンピュータに興味を持ったのはいつ頃ですか?
Saqoosha:一番最初にPCに触れたのは中学生の頃ですね。ちょうど3DCGがテレビ番組やCMに使われ始めて、PCで絵が作れるところに興味を持って触りだしたんです。
―Saqooshaさんは何年生まれですか?
Saqoosha:1978年ですね。
―じゃあフジテレビでやっていた『ウゴウゴルーガ』直撃世代ですね。メディアアーティストの岩井俊雄さんが関わった、かなりシュールな子ども番組でした。途中でPCがフリーズして、キャラクターが動かなくなったりしていましたよね。
Saqoosha:懐かしいですねー! ただ、当時CGを作るためにはすごくハイスペックなマシンが必要で、一画面作るために何時間もかかって大変だったんですよ。それで、CGは一旦置いておいて、プログラミングを始めたんです。そこでゲームを作ったりして。
―『BASICマガジン』(1982年から2003年まで電波新聞社が刊行していたPC関連雑誌)にゲームのプログラムが載ったりしてましたね。
Saqoosha:ああ、読んでました。何よりもPCに触ること自体が面白かったので、MIDIで曲を打ち込んだりもしていましたよ。それで部活も行かなくなって、引きこもりがちな中学生生活に突入(笑)。大きな転機になったのは、やっぱり1995年にWindows95がリリースされて、インターネットが一気に普及し始めたこと。プログラミングの他に画像的なものが求められるようになって、ますます楽しくなりました。その楽しさが今の仕事につながっている感じですね。
■「さわれる検索」に触れた盲学校の子どもたちが「スカイツリーってこんなかたちをしてるんだ!」って言ったんです。それにすごく感動してしまった。「あー、意味あったわ!」って。
―プログラミングの楽しさってなんでしょうか?
Saqoosha:自分の力でコンピューターを思い通りに動かせるところでしょうか。僕はアーティストのようにゼロから何かを作り出すタイプではなくて。仕事仲間やクライアントから「こういうアイデアがあるんだけど、どうしたらいい?」って聞かれたら「こうしたらいいよ!」って実現できる方法をバッと広げる役割なんですよね。
―そういう風に、チームで1つのものを作り上げていくクリエイティブは今日的とも言えますね。具体的なSaqooshaさんのお仕事をお聞きしたいのですが、例えば「さわれる検索」のプロジェクトではどのような役割を担っていたのでしょうか? 「キリン」や「りんご」など喋った声を音声認識して、3Dプリンターで実際にそのオブジェを作ってしまうというサービスで、盲学校に設置されました。
Saqoosha:あれはヤフージャパンさんの「アート&サイエンスで広告の未来を考える」というコンペから生まれたんですよ。有名ウェブ系会社がほぼ全部そろうという、ものすごい顔ぶれだったのですが。
―オールスターバトルロワイアルですね。
Saqoosha:僕は企画会議に最初から入って、プランナーの人たちがぽんぽん出してくるアイデアに対して実現可能かどうかを考える。いわばテクニカルディレクターとして関わりました。
―ウェブサービスと言っても「さわれる検索」はかなり特殊ですよね。3Dプリンターを内蔵した大きな実機を盲学校に置くという、現実的な落としどころがあって。
Saqoosha:インターネットは見たり聞いたりすることはできるけど、触ることはできなかった。じゃあ触れるようにしよう、という発想ですね。それで3Dプリンターを使うことになったのですが、プレゼンまでに方向性をかたちにするために、僕が何をするかというと、使ったことのないデバイスである3Dプリンターの仕組みやできることを理解するために、一日中YouTubeで3Dプリンターのムービーを見てました。はたから見ればぼーっとしているようにしか見えないと思うんですけど……(笑)。
―盲学校に設置するっていうアイデアも、Saqooshaさんが提案されたんですか?
Saqoosha:そこはチームですね。実は僕自身は、このプロジェクトが誰のためのものなのかいまいち落としどころが見えていなくて、「こんなん意味ある?」って最後の最後まで思っていたんですよ。でも、これを盲学校に持っていって、実際に喋った言葉がかたちになって出てきて、それに触れた子どもたちが「スカイツリーってこんなかたちをしてるんだ!」って言ったんです。それにすごく感動してしまった。「あー、意味あったわ!」って。少ない人数しか体験できないものですけど、体験のリアルさはかたちになった。
■「見たことがないもの」を作るために、ひたすら調べていると、新しい技術の「兆し」が随所に見つかる。僕がやるのは、宙に浮いているその「兆し」をひょいひょいと掴んで、かたちにすることなんです。
―その後、ヤフージャパンの「インターネット広告の未来」を研究するコンセプトモデルの第二弾として「トレンドコースター」を制作されました。こちらは特定の言葉がヤフーのリアルタイム検索でどのくらい話題になっているかを解析して、その波形グラフをジェットコースターで体験するという内容でした。遊園地のライド系アトラクションみたいな。
Saqoosha:ヤフーさんから、「ソーシャルグッドもいいけど、エンタメが見たい」と最初に言われましたね。会議の中で「検索と連動した、遊園地のフリーフォールがあったらいいね!」っていう冗談みたいなアイデアが出たときは内心、「そんなの無理やん(笑)」って全員が思っていたんですよ。でもそこから、「これって何かに似てる気がする……ジェットコースターだ!」という話になって。VRヘッドセットのOculus Riftを使った仕事をしていたこともあって、これと当時話題になっていたライドシミュレーターを組み合わせれば実現できるだろうと。
―Saqooshaさんも、企画の時点から話し合いに参加されているんですよね? プログラミングだけでなく、プランナー的な側面もありますね。
Saqoosha:企画会議で求められるのは、世の中のテック事情をどれくらい知っているかなんですよね。クライアントから僕らに投げられるのは、「見たこともないもの作って」というリクエストが多い。それってインターネットもリアルも関係なくて、とにかく「驚き」を求められているということだと思うんです。
―「見たことないものを作れ」というお題にどのように対応するのですか? 求められているのは「今はまだないもの」であり「未来」ですよね。おそらく、作り手がかたちにする「未来」と、受け手が想像する「未来」のイメージには乖離があると思っていて、Saqooshaさんには具体的に「未来」を作っている立場からのお話が聞きたいなと。
Saqoosha:最終的なゴールは「見たことがないもの」ですが、ひたすら調べていると、新しい技術の「兆し」が随所に見つかるんですよ。僕がやるのは、宙に浮いているその「兆し」をひょいひょいと掴んで、かたちにすること。「未来を作ろう」って頭で考えるタイプではないんですけど(笑)、そういうやり方がデフォルトになってるところはあると思います。
■実際にやれることは人の想像力を超えない。でも、それを埋めるのが面白いんですけど(笑)。
―さきほど、「驚き」が求められると言いましたが、同時にエンタメ性も必要?
Saqoosha:もちろんです。驚きだけを持ってきても、今やもう成立しませんから。Oculus Riftを使ったから新しいのではなくて、そこからいかに新しい要素を抽出するか。そして要素は足すのではなく、引いていく。「『進撃の巨人展』 360°体感シアター“哮”」はまさにその発想でした。
―Oculus Riftを使って、40人が一度に『進撃の巨人』の世界を体験するVR映像ですね。
Saqoosha:体験人数も多いですし、Oculus Riftで動く範囲のものを作っていかないといけない。具体的に言うと、あれって1秒間に75枚の絵を描いているんです。
―えっ……通常のアニメだと、1秒24コマの描画が基本になっていますよね。なぜそんなに多いのですか?
Saqoosha:フレームレートを上げるほど、映像が滑らかになって3D酔いしにくくなるんですよ。本当はもっと上げたいのですが、キャラクターや街のオブジェクト数をキープするためには、限界がある。僕的にはフレームレートを維持するために、配置するオブジェを減らしていきたいのですが、演出側は「もっと人や家をたくさん置きたい」と言ってくる。そこには、技術と演出のせめぎ合いがあって。
―どんな落としどころを導き出したんですか?
Saqoosha:「無理!」って言いながら、夜中にがんばってムリヤリ入れられる方法を探す(笑)。例えばモデルのポリゴン数を減らすとか、テクスチャーを変えるとか。
―セガサターンやプレイステーションが登場した頃を思い出しますね。ゲームセンターで稼働しているハイスペックなゲームを家庭用ゲーム機に移植するために、プログラマーが工夫と苦労を重ねるという。アーケードゲームの『バーチャファイター2』をサターンにどうやって移植するんだ! とか(笑)。
Saqoosha:どんなに技術が進化しても、スペックとやりたいことのせめぎ合いは絶対に消えないですね。実際にやれることは人の想像力を超えないものですから。それを埋めるのが面白いんですけど(笑)。
■柔軟性や適応力も技術なんじゃないかなと思います。「考える技術」みたいなものがあれば、プログラミング言語が何であってもできるんじゃないかと思いますよ。
―さまざまなメディア上で展開する広告やエンタメが一般的になると、dot by dotのようなチームをはじめとして、さらに若い人もどんどん登場してきます。Saqooshaさんが考える、クリエイターにとっての大切な心得や技術力ってなんでしょう?
Saqoosha:やっぱり瞬発力、適応力ですね。自分の範囲外のことをリクエストされることも多いので。
―今回のFx0もまさにそうですね……(笑)。
Saqoosha:Fx0は使いやすかったけど、未知のデバイスをいきなり提供されて「これで動かせる何かを作って」ってことも普通にある。そういうときに、僕がノーと言ってしまうと全部止まってしまうから、できないとは言えない。だから、1日中検索してでもやるっていう。
―技術力はマストではない、とも聞こえる気がします。
Saqoosha:むしろ、柔軟性や適応力も技術なんじゃないかなと思います。「考える技術」みたいなものがあれば、プログラミング言語が何であってもできるんじゃないかと思いますよ。
―Saqooshaさんを見ていると、周囲の人との関わり方も、ご自身のできる範囲を広げているきっかけになっているのではと思うのですが。
Saqoosha:人との出会いは大事です。僕は一人では何も作れないし、やっぱりチームあってこそです。あと仕事を始めて気づいたのは、無茶なことをふられて応えるのが僕は好きなんだってことです。
―学生の頃は帰宅部時代もあったわけですから、大きな成長だと思います。
Saqoosha:でも、今も人と接するのが得意なわけじゃないですよ(笑)。クマをかぶったりするのも、人があまり得意じゃないのでキャラを作っているところがあります。
―でも、Saqooshaさんに接するこちら側は楽しいですよ。オフィスの棚にたくさんクマの頭が置いてあって「ここにあるのは6個だけなんですよ」って言われたときに、「え、まだあるの!?」ってツッコミたくなりました(笑)。
Saqoosha:つっこまれるところを残しておくと、むこうから来てくれるので助かります(笑)。
■何かを作ったらそのソースコードを公開する癖があるんですよ。自分の中に留めておいても意味がないし、だったら放流したほうが誰かのためになるかもなと思っています。
―最後にもう一度Fx0について。最初におっしゃっていたように、これまでウェブでもの作りをしていたクリエイターが、手軽にアプリ制作を始めるきっかけにはなると思いますか?
Saqoosha:本当に驚くほど手軽に作れてしまうのは、ブレイクスルーだという感じがしました。やっぱり僕は、作っている期間が一番モチベーションが高いんですよね。特に面白いのは、企画がまだぼやっとしているときに、「さあ、どうやって実現してやろう?」って試行錯誤するのが楽しい。逆に、ある程度完成が見えてくるとだんだんモチベーションが落ちてきて、リリース直前には「次は何しよう?」って考えちゃう(笑)。だからFx0のように、思いついたらすぐ試せる端末は嬉しいです。
―職人気質ですね。
Saqoosha:単にあきっぽい(笑)。僕ね、何かを作ったらそのソースコードを公開する癖があるんですよ。「同じことやりたい人は、全部あげるから自分でやったら?」って。もちろん企業案件は公開できないですけど、基本的に「全部教えるから自分でやれ!」ってタイプなんです。
―それはなぜですか?
Saqoosha:同じことを二度もやりたくない(笑)。それと、作り方を公開することになんの躊躇もない。
―その心やいかに?
Saqoosha:さっきも言いましたが、やっぱり作っている期間が一番面白いからですね。子どもの頃もガンダムのプラモを作っている間が面白くて、できたら人にあげちゃう、みたいな感じ。
―でも、「オレが作ったものが巨額の富を呼ぶかもしれん!」って欲望や予感に駆られたりしないですか?
Saqoosha:そんなにうまい話はなかなかないですよ(笑)。商才の察知力も低いから、誰かが「これすごいんじゃない?」って言ってくれて、やっと気づくタイプ。まあ、それで今まで大損こいたこともありませんし。
―Saqooshaさんのように「作ったら、即ネットに放流」体質の人こそ、天然のオープンソース人間なのかもしれません。ちなみに、「Creator Showcase」というサイトでは、Firefox OSで制作したアプリケーションなどをオープンソース的に共有しているんですよ。
Saqoosha:そうなんですか! 僕も今回作ったロックスクリーンのソースコードは、さっきGitHubにアップしちゃったのでCreator Showcase にものっけとかないとですね(笑)。
―たとえば、著作権を意味するコピー「ライト」に対してコピー「レフト」を名乗った同名運動があって、著作物は全人類が自由に利用・再配布・改変できるべきであると1980年代から主張しているんですよね。Firefoxも、その思想を受け継ぐオープンソースとして開発されているわけで、そのことを企業がサポートしているのが面白いなと思うんです。黎明期からインターネットに触れているSaqooshaさんとしても、そういった自由度な精神が板についているのかもしれないですね。
Saqoosha:自分の中に留めておいても意味がないし、だったら放流したほうが誰かのためになるかもなと思っています。
―やや強引につなげちゃいますけど、Fx0もキャッチコピーに「さぁ、何つくる?」を掲げていて、Fx0も「これが新しいガジェットですよ」っていうよりも、「新しいことをやってね」って、開発者から投げられたものって感じがしませんか? その意味では、Saqooshaさんのような人にこそ、末永く付き合える端末だったりするのかなと。
Saqoosha:僕はつまみ食いタイプですからね(笑)。Fx0みたいにさくっと試せてかたちになるのは嬉しい環境ですよ。Fx0はいわば、スケッチブックみたいなものかもしれません。
―冒頭でもプログラミングができる人なら「本当に作るのが簡単だ」とおっしゃっていましたもんね。本機に入っている「Framin」というツールに至っては、スマートフォン上だけで自分だけのアプリを作れますし、これから開発者を目指す、若い層にも影響を与えるのでは?
Saqoosha:そうですね。まぁ、言ってみればインターネットの世界はずっとオープンで、自由だったんですよ。Fx0はその精神を正統に引き継いだプロダクトなんじゃないでしょうか。せっかく恵まれた環境なのだから、若い開発者はもっと世の中に出てきてほしいし、そのためにはひたすら「作りたいものを作る」べき。それが一番大事なことだと思いますね。
福島を取材で訪れた主人公が鼻血を出す描写が大バッシングを受けた『美味(おい)しんぼ』鼻血問題。
【写真】雁屋氏が描いた「福島の真実」
騒動から10ヵ月がたった先月、原作者の雁屋哲氏が沈黙を破り、ついに反論本『美味しんぼ「鼻血問題」に答える』(遊幻舎)を刊行。鼻血は決して風評ではないとする著者に、じっくりと話を聞いた。(第1回→http://wpb.shueisha.co.jp/2015/03/13/44879/)、(第2回→http://wpb.shueisha.co.jp/2015/03/19/45279/)
PART3では、鼻血騒動に対する福島県民からの意外な反応について、そして福島へのメッセージをお送りする―。
***
―ところで、鼻血騒動の時、雁屋さんの元に届いた意見には批判の声が多かったのでしょうか。
雁屋 あの騒ぎの時、2、3週間で900通近いメールをもらいました。そのうちの95%は僕に対する応援でした。(雁屋氏に)同感という意見や、福島県民からは「私たちが言えないことを言ってくれてありがたい」という声。福島に住んでる人たちが何か言うと、変わり者と言われちゃう。だから、本当のことをはっきり言ってくれて嬉しかったという意見が多くありました。
―そもそも『美味しんぼ』で、なぜ福島のことを描いたのですか。
雁屋 震災後最初に青森、岩手、宮城を訪ねて「被災地編」を書きました。そうすると取材で行く先々で「俺たちは一生懸命やろうと思うんだよ。でも、福島第一原発があれじゃ、いつ何が起こるかわからなくて力が抜けるんだよ」っていう声を聞くんです。最初は僕もなんとか福島に復興してもらいたいと思ってた。それで予定どおり福島編をやろうとなったのです。
―私も「福島の真実編」(110巻、111巻)を読みましたが、雁屋さんが福島のことを一番に思って描いているのがよくわかりました。だからこそ、鼻血のコマの部分だけ炎上してバッシングされたというのがわからない。批判する人は、全部を読んでないとしか思えないですね。
雁屋 僕は福島がすごく好きでね。本当は福島応援団のつもりで行ったんです。だから最初は内部被曝に対する考えも甘かったんです。だが、調べていくと原発事故以後の食べ物は相当に汚染されていることがわかった。例えば、セシウムが25ベクレル含まれた食べ物を一日100g食べたとすると、それだけで事故前より147倍も多く摂取することになる(注・日本分析センターが2008年に調査した日常食に含まれるセシウム137の福島市の結果から推定)。
でも、国が食品の基準値を100ベクレル以下と決めたことで、みんなが食品は100ベクレル以下ならいいと思ってしまった。それに食べ物の放射線量も問題だけど、そこで農作業している人たちの被曝はもっと深刻です。
―どういうことですか?
雁屋 土壌に放射性物質がすごく含まれてるでしょう。農作業をしていて土壌を耕すとそれが舞い上がる。田んぼの周りにいるだけで風が吹けば吸ってしまう。だから 食品の線量が低くなってもやっぱりダメだという結論に達したわけです。福島県庁だって僕が行った時には毎時0.5μSvあった。避難指定にすべきですよ。土地の汚染はいくら除染したって取り切れませんから。
―住民の中には被曝は怖いけど、いろんな事情で避難しない人もいます。どうしたらよいでしょうか。
雁屋 本当はここに住みたくないと声を上げることです。かなりの人が声を上げたら、日本人はみんな絶対に反応して応援します。外からなんとかしろと言ってもダメなんです。ある県民が福島の人は従順でおとなしいと言っていましたが、自分の命がかかっているのだから反抗すべきです。
僕がこういうこと言うと福島差別だって言う人がいるけど、それは逆。福島を差別している人だから「年間20mSvでも住め」なんて平気で言えるんだ。もし福島県の人たちを自分と同じ人間だと思ったら、「福島以外に住む僕たちは年間1mSvなのに、なぜあの人たちは20mSvで平気なんだ」と疑問を持って言うべきでしょう。
―雁屋さんに対し、政治家たちはこぞって根拠のない風評だと言いました。それに対してはどう思いますか。
雁屋 風評とは、噂やデマなど事実に即してないことを言いふらすことです。僕が言ってることは自分が体験した事実。それを風評というのは到底受け入れられない。風評と言う人は僕の言ったことのどこが風評かその根拠を示してほしい。誰のどの論文を根拠として、低線量や内部被曝では何も症状は出ないと言い切れるのか。そうしないと議論にならない。
―今、意見が違うと対話もできない風潮になっています。
雁屋 意見が食い違うだけでなく、福島の真実を語ると社会の裏切り者みたいな空気がある。みんなの和を乱すようなことするなって。とにかく僕はきちんともう一度議論したい。みんながいろんな意見を言う。それをしないで縮こまっちゃって、特に福島では放射能のことを何か言うと「おかしい」って言われる。
でも自分たちの命がかかってることなんです。福島の人たちには声を上げてもらいたいし、福島から逃げる勇気を持ってほしいと思います。
***
原発事故から4年が経過し、福島の復興に水を差す恐れがあるテーマは、議論することさえはばかられる風潮が強まっている。だが被曝問題は住民の健康に関わる重要なテーマ。すべてを風評のひと言で片づけず、きちんと議論や検証をしようという雁屋氏の意見は正論だ。
中には渦中に沈黙していたのに、何を今さらとの声もある。だが当時、首相までもが一マンガを批判する異常な事態下で、冷静な議論ができたのかは疑問だ。
■雁屋 哲(かりや・てつ)
1941年、中国・北京生まれ。東京大学教養学部基礎科学科で量子力学を専攻。電通勤務を経てマンガ原作者になり、1983年より『美味しんぼ』(画・花咲アキラ氏)を連載
(取材・文・撮影/桐島 瞬)
今週は中山で皐月賞TR「スプリングS」が行われる。11年連続で1番人気馬が3着以内に食い込む比較的堅めの傾向の中、万券王・水戸氏はブラックバゴに◎を打った。一方、「阪神大賞典」は、ゴールドシップの取捨がカギ!
2週前の弥生賞と並ぶ皐月賞トライアル(3着までに優先出走権が与えられる)。弥生賞は、サトノクラウンの完勝に終わったが、このスプリングSの顔ぶれは、ほぼ互角か、それ以上に見える。
GI朝日杯FSを勝って2歳王者となったダノンプラチナが最右翼だが、ドゥラメンテを破って共同通信杯を制したリアルスティールの素質の高さは誰もが認めるところ。
この両雄に続くのは、新馬─500万平場を難なく連勝したキタサンブラック、2連勝中のベルーフ、新潟2歳S勝ち以来、復活したミュゼスルタンだろうか。特にベルーフは、大外枠(17番枠)をものともせず、前走の京成杯を制し、スターダムに躍り出た逸材。この時点で皐月賞の有力候補として名を連ねることになった。本番を前にどんな白熱した競馬を見せてくれるのか、想像するだけで楽しい。
弥生賞は荒れることがまれで、そのとおり本命サイドでの決着となったが、スプリングSは、どうだろう。こちらもひもとくと比較的順当に収まっており、荒れることは、そう多くない(03年に馬単が導入されて以降、その馬単で万馬券になったのは3回。1番人気は4勝、2着3回。2番人気は2勝)。
ということからして、今回の顔ぶれからも人気勢が枕を並べて‥‥ということはありえまい。
では人気、評価どおりかとなると、そう簡単ではないだろう。
前述した有力どころと比較しても、そう見劣りしない素質馬が他にもいるからだ。
フォワードカフェ、ブラックバゴなどは、そのクチで、特にブラックバゴである。ホープフルS3着、京成杯2着の成績から伏兵とは言い難いが、人気順は少しばかり低いのでは。穴党としては、そこがつけめ。大きく狙ってみたい。
ここで3着以内に入らなければ、獲得賞金から皐月賞の出走権は手中にできない。つまりここは全力投球での挑戦。1票投じないわけにはいくまい。
まずは惜敗した前2走を振り返ってみようか。
前々走のホープフルSは、インの狭いところにコースを取ったため、前を行く馬が壁となって進路をふさがれたのが敗因。前走の京成杯は道中引っ掛かる場面があり、折り合いを欠いたのがいけなかった。にもかかわらずハナ差の惜敗だった。力量のほどは推して知るべしである。
その馬が、この中間大幅な良化ぶりを見せている。1週前の追い切りは、軽快かつリズミカル。文句なしだった。稽古は坂路中心だった馬が、ウッドチップコースで強めにできるようになったことも強調していいだろう。
「脚元がパンとしたので思いどおりの調教が積めるようになった。カイバ食いが旺盛になったし、デビュー以来、最もいい状態でレースに臨めそうだ」
と、斎藤調教師が目を細めるほどの好仕上がり。
凱旋門賞をはじめ、GI5勝のバゴを父に、ステイゴールド(3冠馬オルフェーヴルなどの父)が母の父。母系は欧州の一流血脈とあっては破壊力十分。晴雨にかかわらず中心視したい。
阪神大賞典は、デニムアンドルビーを主力に見たい。ここは3カ月ぶりの実戦になるが、短期放牧でリフレッシュされ、いい雰囲気。久々を感じさせない好仕上がりを見せている。1週前の追い切りも力感があった。気のいい牝馬で鉄砲駆けするタイプ。阪神コース〈2101〉との相性もよく、好走必至と見た。
くんずほぐれつの酒池肉林。好き者たちの“ホットスポット”が摘発された。東京の玄関、上野の繁華街にある会員制ハプニングバー。ここに警視庁の捜査員が踏み込んだとき、老若男女50人あまりがムフフな行為をしたり、見たりの真っ最中だったという。風俗関係者も「今どき、これだけ人数が入れるハプバーも珍しい」と驚く隠れ家的風俗店。売り上げは都合4年で14億円というから好き者人口の層の厚さに2度驚かされる。
「昼すぎに水商売風の若い女性と中年男性のカップルが楽しそうに店に入っていくのを見た。ガサ(家宅捜索)入れの後、首から名札のようなものをぶら下げて他の客と一緒に護送車に乗せられていたよ」
一部始終を目撃した男性はそう話す。
警視庁保安課が、公然わいせつ幇助の疑いで逮捕したのは、ハプバー「Dark Night(ダークナイト)」の経営者、青木大輔容疑者(34)と従業員の男女2人。客の男女7人も他の客にわいせつ行為を見せたとして、公然わいせつ容疑で現行犯逮捕し、2人を書類送検した。
摘発があったのは、人通りも多い15日日曜日の午後4時ごろ。私服捜査員が正午過ぎから繁華街の雑居ビルに入居する同店(地下1~2階)の様子をうかがい、踏み込んだところ、そこは熱気ムンムン。20代から60代まで48人がらんちき騒ぎの真っ最中だった。
「店内は大人のクラブのような趣きで、最大で100人は入れるほど広い。客層は女性は若い人がほとんど、男性の年齢層は幅広かった。この日は、常連客しか入場できない『ダークな日』というイベント日で、客は店内の好きな場所でプレーすることが可能だった」(店を知る関係者)。まさに至るところでの状況だったようだ。
ダークは2011年にオープンし、風俗案内サイトなどによると、入会金は一律1000円、女性の単独利用は無料で、男性は8000~1万5000円。数十種類のコスプレも人気だった。営業時間は午後1時から翌朝5時までで年中無休。保安課は1日平均約100万円、4年間で約14億円を売り上げていたとみている。
2000年前後に広まったハプバーも次第に問題化。04年にはAV男優のチョコボール向井氏(48)が、バー内での行為で逮捕され、有罪が確定。ここ数年、新規出店はまれだった。
「ダークはそこに需要があると目を付けたのだろう。実はこの店、某保険代理店の社長が出入りする様子を昨年、写真週刊誌が報じるなど業界内でも注目を集めていた」とは風俗誌の編集者。
ダークの入り口は2重扉で、「内側から鍵を開けてもらわないと入れない仕組み。セキュリティーには気を配っていたようだ」(先の関係者)というが、「以前から、店の中でわいせつな行為が行われているとの声が寄せられていた」(捜査関係者)というから摘発は時間の問題だった。
もっとも、「捕まっても経営者らは簡単に客を手放さないだろう。ほとぼりが冷めれば別の場所で再び営業を始めるはず」(先の編集者)。当局とのいたちごっこは終わりそうにない。
巨人・渡辺恒雄最高顧問(88)=読売新聞グループ本社代表取締役会長・主筆=が17日、都内で行われた激励会で恒例の「巨人が勝てば景気がよくなる」理論を披露した。
冒頭の主催者あいさつで渡辺最高顧問は「統計的に確立された数字があるとはいえないが、おおむね巨人ががんばってくれて景気がよくなる」と持論を展開した。
「安倍内閣ができて3年目に入る。巨人軍も3年連続でリーグ戦では勝っている。今年は本当の正念場。アベノミクス第3の矢の効果が上がるか上がらんかというのは今年だと思う」と分析。春闘の大幅ベアに「景気がすでによくなっている気がするし、今日も(日経平均)株価が2万円台にもうちょっと。空気はいい」と語った。
この理論に従えば、景気回復が本物なら巨人の勝利も間違いなし。「今年はもう優勝した後ですよね。クライマックスシリーズと日本シリーズを勝ち抜いてもらって。そのころ株価も3万円説があるくらいですから」。日経平均株価が3万円台に乗れば、バブル期の1990年8月以来だ。「読売新聞も大幅なベースアップができるように。今年はちょっと遠慮しとるわけですから。年末のボーナスがうんと弾めるように」と親会社への経済効果も期待した。
日本一奪回への不安要素は、連日のように耳に入るナインの故障報告。ただ自身も昨年11月に自宅で転んで上腕部を骨折し40日間入院した経緯があり、怒るに怒れない。「大酒を飲んで睡眠剤も余計に飲んで、それでおかしくなってひっくり返ってケガをした。選手諸君は練習とか試合とか、一生懸命チームのためにがんばろうと思った結果、ケガした。僕から文句なんて言えた義理は全くない」。そう語って笑いを誘った。
原監督が「水鉄砲打線」と自虐した貧打も、この日のヤクルトとの練習試合で15安打9得点とお目覚め。指揮官も「紙鉄砲くらいになった。個の力もチーム力も上がっている。(開幕戦で)最高の状態でスタートすると思い、計画通りきている」と自信を見せた。
最高顧問の「いい夢を見させてくださいよ、諸君」という願いをかなえる、アベノミクス第4の矢となるだろうか。
(笹森倫)2015/3/19 16:56 更新