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AirBnB、使ってみました。
AirBnBは個人間での短期的な家の貸し借りマーケットプレース・サイト。家まるごとでも、一部屋だけだけでも貸し出すことができます。既に世界192ヵ国、2万6000都市の物件が掲載されており、検索してみたら日本でも「家まるごと」が151件、「家の中の一室」が180件、「ルームシェア」が33件ありました。(「家まるごと」には、一軒家もマンションもアパートも含まれます。)
「BnB」はbed and breakfastの略です。ベッド・アンド・ブレックファストは日本ではB&Bの略称で呼ばれることもありますが、たいていは家族経営の宿泊施設で、ちょっといい感じの由緒ありそうな家を改造して使っていることが多いです。その名の通り、朝ご飯付き。そして、B&Bの&(and)は明瞭に発音しないと「ン」の音だけが残るので「’n」と略式に表記されることもあります。それでAirBnB。発音は、エアビーンビーとエアビーエンビーの中間くらいが最も近いかと思います。
AirBnBは2008年起業で、このコラムでも触れたことのある老舗インキュベータ(アクセラレータ)のY Combinatorの出身です。去年7月に1億1200万ドル(約90億円)、今年9月には1億ドル (約80億円)と巨額な資金を調達しており、次のビッグベンチャーとして大きな期待が寄せられています。本社所在地は、素敵なベンチャーがたくさんあることで知られるサンフランシスコ市内。
「一般人が自分の家を貸す」というのは、AirBnBが突然思いついたものではなく、昔から「バケーション・レンタル」という市場が存在しています。これは、夏休みなどのバケーション用に1ヵ月単位などで普通の家を貸し出すもの。自分も数ヵ月のバケーションに行ってしまう人が貸すケースもあれば、もともと投資用に持っている不動産を貸し出す場合などいろいろあります。
最近では、ジェームス・ボンドを演じるピアース・ブロスナンがカリフォルニアの邸宅を高額でバケーション・レンタル市場に出したことが一部で話題になりました。高級住宅地のマリブにある延べ床面積1200平方メートルの家の貸し出し値段は、月あたり25万ドル(約2000万円)、加えて保証金75万ドル(約6000万円)。バカンスのご予算が1億円ほどある方は是非ご検討ください。
こうしたバケーション・レンタルのマーケットプレースを運営するサイトは以前からあり、そのひとつのHomeAwayは昨年、上場もしています。
そうした中、ハイエンドで月単位のレンタル市場が成立するなら、普通の家の、より短期のレンタル市場も成立するのでは、ということで誕生したのがAirBnB。その後、同様の市場を狙う競合としてニューヨークのRoomoramaや、ドイツのWimduなど様々なベンチャーが登場していますが、今のところ少なくともアメリカの物件ではAirBnBの独り勝ち状態のようです。
そんなわけで、一度AirBnBを使ってみよう、とは思っていました。しかし、なんとなく怪しい感じもして遠巻きに見ていたのですが、このたび週末旅行に利用してみました。
行き先はシリコンバレーにほど近い風光明媚(めいび)な海辺の街、カーメル。元々は芸術家が住み着いた場所で、クリント・イーストウッドが市長だったこともあります。(当時は世界から観光客がやってきて、地元民は「あら、クリント・イーストウッドって世界的に有名だったのね」と驚いたとか)。一時日本企業が所有していたペブルビーチや、環境保護活動にも熱心なモントレー水族館も近隣にあり、沿岸にはクジラが通り、ラッコはいつでも海草に絡まっている、という盛りだくさんな場所です。
そのカーメルの一軒家を借りてみました。前述のHomeAway等でも物件を見て幾つかコンタクトしましたが、空室日程があわなかったりして結局AirBnBで探した3ベッドルームの家に。 AirBnB上では泊まった人がその物件のレビューを書くことができるのですが、皆とても満足している模様なので決めてみました。ただ、他の同サイズ/ロケーションの家に比べて大お値打ち価格だったので、「もしかして超ボロい?」とおそるおそる行ってみたのですが、到着したらとてもまとも。海にもお店にも歩いていける素晴らしいロケーションで堪能できました。
支払いは予(あらかじ)めAirBnBでクレジットカードで全額払い。鍵は家の裏に隠してあるものを使って入り、最後にまた同じ場所に置いて帰る、という流れです。(鍵の引き渡し方法は物件によって違います。)
AirBnBは、支払い処理以外に、24時間体制の電話サポートを行い、さらにレンタル中に盗難などの損害が生じた場合、貸主に5万ドル(約400万円)まで負担しています。
また、AirBnBのサイト上では、「泊めた側」が「泊まった人」をレビューすることもできます。実際、他の物件を借りた人で「この人たちはかなり部屋を汚して帰って行きました。残念」といったコメントを貸主に書かれてしまっている人もいました。時代はソーシャル。悪いことはできません。
ちなみに、その後、私が泊まった家をもう一度AirBnBで見てみたら、値段がいきなり60%アップしていました。「ボロいから安い」のではなく、「貸主の値付けが間違っていたから安」かったのでした。
さて、こうした短期レンタル、実は多くの街で違法です。
「1ヵ月以下の賃貸を行う場合はホテル業の免許が必要」というルールがある街が多く、AirBnBの本社があるサンフランシスコも、私が行ったカーメルも同様のルールがあります。免許だけでなく宿泊税などの特別な税金もありますが、ホテル業の免許を持たないところは当然こうした税金も払っていないはず。
違法なのはマーケットプレースのサイトを運営する会社ではなく、貸し出しをするオーナー。それを知りながら貸し出している人も多いようです。サイト上には1月あたりの料金しか載っていないのにコンタクトすると2~3日でも貸してくれたり、詳細な住所や家の外見の写真が掲載されていないこともあります。違法なことをわかった上で貸しているのでしょう。
しかし、昔から、この手のP2P(個人間取引)系ビジネスは、違法性がありながら突破していこうとするものが多いですね。P2P音楽ファイル共有のナップスターは違法判決で完全にシャットダウンしてしまったし、P2P金融のプロスパーは証券取引委員会の指示で一時業務停止処分になっていました。「微妙に法に抵触する」から、「極めて違法」までいろいろありますが、少々違法であってもベンチャーが登場し、戦いながらもそれなりに育って行く土壌があるのがアメリカという国なのだと思います。
今回は、日本で決して人気が出そうもない携帯のアプリケーションをご紹介したいと思います。
それはLife360。2008年に起業し、グーグルを含めた様々な投資家からこれまでに1000万ドル近い資金調達をしてきたサンフランシスコにあるベンチャーが作っているアプリです。
Life360は家族コミュニケーションアプリで、家族が、互いの現在地をリアルタイムで把握したり、簡単にメッセージを送ったりできる、というのが売りです。
Life360を携帯にインストールして自分の家族のネットワークに登録すると、いつでもどこでも家族のいる場所をLife360の地図上で確認できます。家族の位置情報は、Life360が定期的に家族全員の携帯の場所をチェックして表示。とはいえ、最新のデータがあるとは限りませんので、「今この一瞬の場所が知りたい!」という時は、知りたい家族のアイコンをタップして、次の画面にあるUpdateボタンをタップすればOK。
相手が知らない間に相手の場所をチェックするのはちょっと強引、と思う場合は、Check-in Requestというボタンもあります。これをタップすると、相手の携帯に「今いる場所でチェックイン(登録)して」というリクエストがテキストのメッセージで送られます。家族がいた場所の履歴を一覧で表示することもでき、「今日、家族はどこでどれくらい過ごしたのか」ということが簡単にわかります。
さらに、家族間でメッセージを送り合うことも可能。「Running Late(遅れる)」「On my way(向かっているところ)」「Got to school(学校到着)」の3つがボタンとしてあり、この3つのメッセージであれば、それをタップするだけで送信可能。それ以外のメッセージを自由に入力することもできます。
また、家族間のコミュニケーション以外でも、司法省が公開している近隣の性犯罪者を見たり、警察が公開している過去の事件を発生地から確認したりすることもできます。(米国では、性犯罪者は10年以上または生涯にわたって現住所を登録する義務があります。)
以上は全て無料で利用でき、さらに月5ドル払ってプレミア会員になると、非常時にワンタップで「アドバイザー」と呼ばれる人に連絡ができ、その人経由で警察や救急に連絡をしてもらうなど、様々なサポートを受けることができます。
最初に承認し合った相手としかつながることはできませんし、個々の家族ごとに閉じたネットワークなので「子供が、知らない間に別の人ともつながっていた」ということはありません。
さて、以上でおわかりになると思いますが、Life360では同じネットワークに登録している家族間のプライバシーは無いも同然です。携帯を持っている限り自分のいる場所を隠すことは不可能。GPSがある限り世界中どこでも使えますので、海外出張中でもこまごまとした行き先が把握できます。
そんな恐ろしいアプリなわけですが、アメリカの一般家庭の日常生活では極めて便利です。というのも、車社会のアメリカでは、子供はどこに行くのも親が運転して連れ回さなければなりません。朝、学校に送り、午後、学校でピックアップしてスポーツやらお稽古ごとに連れて行き、またそこからピックアップして家に連れてくる、といったことを毎日毎日繰り返しているのがアメリカの日常です。週末も、やれスポーツだ、友達の家だとあちこちに連れ回って一日が終わります。共働きの家も多いので、誰が送って行くのか、誰がピックアップするのか、といった役割分担が常に必要ですし、子供が複数いると、親も手分けして運転手役をこなすことになり、なかなかハードな日々となります。
中学生くらいになったら自転車で学校に行けばいいんじゃないの?と日本育ちの私は思うのですが、これを言ったところ、アメリカ人に鼻で笑われました。「そんなオタクなことできない」そうです。日本の公立校に行っていた感覚だと、親の自動車で送ってもらう方がずっと恥ずかしい気がするのですが、全くそうではない模様。親は大変です。
Life360は、そんなアメリカの日常生活をサポートするアプリで、既に2500万ダウンロード。日本でも、「子供の居場所が一方的に親にわかる」というのであればそれなりにニーズはあるかもしれませんが、親の場所も含めて全員の場所がわかってしまうのは中々ハードルが高そうですね。
私も早速申し込み、送られて来た容器に唾液を入れて郵送。2ヵ月ほど待ったところで「結果をウェブで見ることができます」というメールが来たのでアクセスしてみました。
解析結果情報はかなり膨大です。これまでに発表された様々な研究で「Aという遺伝子の人は、Bになりやすい」という傾向がわかっているものについて、私の遺伝子がどのタイプかを綿々と列記してあります。解説情報まで含めるとたいへん長大で、分厚い専門書1冊分は優にあるはず。さまざまな病気のなりやすさ、薬の効き具合、特徴(アルコールを飲んで赤くなるか、など)、先祖の発祥地などに加え、50を超す遺伝病の素因があるかどうかもわかります。
ただし、現在の科学では「A→B」の因果関係についてまだ決定的にわかっていないものも多いのですが、そうしたものも「信頼度低」という但(ただ)し書きで結果が表記されています。(どれくらい信頼度があるかは、それぞれの傾向について星1つ~4つで表記されています)。そして、「信頼度低~中」という結果が多数。もちろん、中には因果関係がかなり高い確率で立証されているものもあるのですが、それでも「平均的に0.3%の確率でかかる病気に0.9%の確率でかかる」といったものが多く、「だからどうした」という感じ。しかも、ほとんどの結果が「ヨーロッパ系の人種に限る。アジア人の傾向は不明」となっています。
とはいえ、中にはかなり重大な情報もちらほら。たとえば、アルツハイマーの最強遺伝リスクとして知られるApoEと呼ばれる遺伝子の配列も見ることができます。(こうした「因子があったらそれなりに衝撃、しかも予防法も治療法も無い」というような一部の遺伝情報に関しては、その重要性情報を読んだ上で「本当に知りたい」というボタンをクリックしないと開かないようになっています)。遺伝病を含め、このあたりは実際に因子があったら悩ましいところ。独身だったら、将来結婚する時に相手に伝えるべきか。自分の子供の結果だったら、果たしてそれを本人に伝えるべきか。
私の結果の一部を開示しますとこんな感じです。
o 99.9%アジア人(残りの0.1%は不明)
o アルコールを飲んでも赤くならない
o 耳垢(あか)は乾いている
o 目は茶色
o 髪の毛はちょっとカーリー
o カフェインの代謝が遅い
……「知ってます」という結果ばかり。変わったところでは、
o アスパラガスの代謝後物質の臭いがかげる
という結果もありました。なぜかアメリカ人は「アスパラガスを食べた後は尿が独特な臭いになる」ということにこだわりがあり、「臭う」「臭わない」で論争があるのですが、遺伝的にその臭いに敏感な人とそうでない人がいるという発見があった経緯があります。「だからどうした」ですが。
もうちょっとシビアなところでは、こんな結果もありました。
o アルツハイマーになる確率が平均値の1.98倍
o 1型糖尿病になる確率が平均値の3.71倍
o しかし2型糖尿病になる確率は平均値の62%
o 加齢黄斑変性(老人の失明の原因になる病気)になる確率が平均値の14%
o ヘロイン中毒になりやすい
1型糖尿病はいまさらならなそうな気がするので、アルツハイマーに気をつけたいと思います。
総合しますと、現在のところ、23andMeで検査をする意味があるのは、
o かなり遺伝に興味がある
o 特定の遺伝病の因子の有無を知りたい
o ヨーロッパ系人種
というところかと思います。私自身の最もクリティカルな発見はアルツハイマー因子ですが、これについては祖母が一人罹患(りかん)していたので、遺伝子検査をするまでもなくリスクがあることはわかっていました。たとえヨーロッパ人種でも、23andMeでわかるのは「当たるも八卦(はっけ)、当たらぬも八卦」的な内容がほとんどです。
しかし、23andMeの狙いは「検査」ではなく「発見」にあるようです。彼ら自身がユーザーを使ったリサーチを進めており、「23andMeのリサーチに検査結果を使ってよい」という承認を与えると、様々なアンケート調査に回答するよう促されます。この病気になったか、あの病気になったか、 酒は飲むか、煙草(たばこ)は吸うか、泣き上戸か、兄弟姉妹はいるか…と、それはもう無限に質問があります。23andMeのユーザーが大量になれば、このアンケートと遺伝子の相関を調べることで新しい「遺伝的関連性」がわかるというもの。さらに、この発見をベースとした遺伝子治療が見いだされれば、この情報の価値は非常に大きなものになります。
とはいえ、そこに至るには「大量のユーザの検査データがたまる」→「多くのユーザが調査参加を承認する」→「多くのユーザがアンケートに回答する」→「ゲノムのどの部分が、どんな病気・特徴に関連しているか特定できる」→「それをターゲットとした治療法ができる」という長い長い「わらしべ長者」の道が待っています。まずその第一歩として、破格の99ドル(約1万円)という価格でゲノム解析を提供、「大量のユーザ」を得ようとしているのが現状ということでしょう。
とりあえず現段階での23andMeユーザである私の直面する問題は、「私とあなたは5番目のいとこ)らしい」と23andMe内で連絡をくれたシンガポールの人に返答するか否か。ちなみに、first cousinは普通のいとこ、second cousinは、はとこ(いとこの子供同士)。fifth cousinはコンタクトを取って何か新しい発見のある相手なのかどうなのか。悩ましいところです。
貨幣経済の未来はサトシなのだろうか。そう考え始めると夜も眠れません。
というわけで、今回はビットコインのお話です。
ビットコインはデジタル通貨。どこの国家が発行したのでもないオンラインのお金で、2009年に登場、現在では千数百億円に相当する額が世界で流通しています。そしてその最小単位は「サトシ」。1億サトシ=1ビットコインです。今のところ大雑把に言って1ビットコインは1万円くらいなので、1サトシは0.0001円ということになります。安いぞ、サトシ。
デジタル通貨はビットコイン以前にもあり、90年代半ばからいくつかの試みが失敗してきました。そんな中でビットコインが革命的だったのは発行母体がないということ。たとえば、円であれば日本銀行、米ドルであれば連邦準備制度といった中央銀行が発行しているわけですが、ビットコインには中央集約的に発行する機関がありません。
その代わりにあるのが強力な暗号技術によるセキュリティと、ビットコインの取引を見張って記録する多数のコンピュータです。この「ビットコイン取引見張りコンピュータ」は、誰でも持つことができます。しかし、パワフルなコンピュータを24時間フル稼働させなければならず、それには電気代だけでも月に数百ドルはかかるとされています。(ビットコインを使うだけならそんなパワーは必要ありません。これはあくまで「見張りコンピュータ」の運用にかかる値段です。)
何のメリットも無いのにそんなコストを負担する奇特な人はいないのですが、ビットコインのすごいところは「見張りコンピュータ」を運営する人にインセンティブが提供される仕組みが組み込まれていること。全ての「見張りコンピュータ」は、特定の暗号パズルを解くという課題が与えられており、この課題を最初に解けたコンピュータには、ご褒美としてビットコインが提供されるのです。そして、1つの課題が解けると新たな課題が登場、同じプロセスが繰り返されます。この「ご褒美」自体が新たなビットコインの誕生、つまり「通貨発行」に当たり、この仕組みを通じて少しずつビットコインの流通量が増加するようになっています。
(なお「見張りコンピュータ」はマイナーと呼ばれます。「鉱物を掘る人」という意味で、要は、地中に埋まっている金塊を掘り当てるのと、コンピュータで暗号の解を探し当てるのは同じ、という発想です。汗水流して金を掘り当てるかわりに、高機能なハードを用意して電気代を費やすわけです。)
もう1つ、ビットコインのすごいところは、1回当たりの「ご褒美」のビットコインが時を経るにつれだんだん少なくなり、かつ課題の暗号パズルはどんどん難しくなって行くところ。ビットコインができたばかりのころは普通のパソコンで「見張りコンピュータ」の役割が十分果たせましたが、今では専用のハードウェアが必要になりました。最近では、全ての「見張りコンピュータ」を合計すると1日当たり1500万円相当の電力が消費されているとも言われています。ビットコイン、環境には厳しいです。しかし「パズルが簡単で、しかもビットコイン発行量が多いうちにご褒美をもらっておく方が得」というインセンティブがあるため「見張りコンピュータ」の運営者がいなくなることはありません。
なお、ビットコインの発行量はだんだん減り、発行総数が2100万ビットコインになったところで「打ち止め」となります。そうなったら誰が「見張りコンピュータ」を運営するのかと心配されるかもしれません。しかし「見張りコンピュータ」には、「パズル解決のご褒美」以外に、その時点で流通したビットコインの取引手数料がほんの少し入ることになっています。現状では手数料は微々たるものですが、将来的にはこの手数料が「見張りコンピュータ」運営のインセンティブになると考えられています。
使う側にとっても、ビットコインのやり取りは、銀行やクレジットカード会社を介さずにできるため手数料が極めて安く、しかも匿名の取引が容易だというメリットもあります。
しかし、ビットコインには「黒い噂(うわさ)」もつきまといます。最初にビットコインが活用されたのが違法ドラッグの取引サイトだった、とか、ビットコインと一般通貨(円やドルなど)との交換相場が乱高下した、などなど。しかも匿名取引なので誰から誰にお金が渡ったのかをたどるのも困難です。ですが「発行母体」が存在しないので、世界中のどの政府も取り締まることができません。
このビットコインに、国家の枠組みを超えた未来の通貨のあり方を見る人たちもいて、シリコンバレーにもビットコイン関連ベンチャー専用の投資ファンドができました。実際に、ビットコインと一般通貨を交換する市場の運営や、ビットコインを管理するソフトや口座を提供するベンチャーなどがあちこちで誕生しています。一方で、「そんなSF映画みたいなことがあるか」と全否定する人たちもいます。まさに海のものとも山のものともわからない、魅力的なベンチャー領域と言えましょう。
さて、冒頭で書いた通り、ビットコインの最小単位はサトシなのですが、なぜサトシなのか。それは、ビットコインの発案者名がナカモトサトシだからです。「おお、日本人が作ったのか」と思われるかもしれませんが、これは偽名、といいますか、ペンネーム。今日に至るまで「ナカモトサトシの正体」は不明で、京大教授の日本人だ、いやアイルランドの大学院生だ、複数の合作だ、いやいやどこかの国家の陰謀だとする説まで様々な憶測が飛び交っています。
しかし、強力な暗号という秘密技術で成り立つビットコインの作者自身が「てへ、正体ばれちゃった」などという事態になってはビットコインの信用にも関わります。しかも、「実はナカモトサトシは全ビットコイン供給の25%を持っている」という超黒い噂まであり、どう考えても、そうそう簡単に正体が判明することはないでしょう。それがまたビットコインの魅力を深めてもいるのですが。
Glow(グロウ)というモバイルアプリがあります。
創業者はマックス・レヴチン(♂)とケビン・ホウ(♂)。マックス・レヴチンは、1998年にPaypal社を創業、上場させたのちにeBayに15億ドルで売却、さらに2004年にSlide社を創業しGoogleに1億8200万ドルで売却したシリアルアントレプレナーです。
創業者の名前の後に(♂)マークが付いているのは、Glowが「妊娠をサポートするアプリ」だから。なんだかとても女性的な内容なのに、むさ苦しい男性2人チームではじめられたGlow。ではありますが、よく考えると男女が両方いてはじめて実現するできごとですので、男性が創業者の方が「妊娠・出産は女性の問題ではなくカップルの問題」という事実の社会啓蒙(けいもう)のためにはよさそう。
Glowアプリには男性バージョンと女性バージョンがあり、基礎体温や月経の期間などを記録、それに基づき妊娠しやすい日を割り出せるようになっています。さらに、単なる記録機能だけでなく、いろいろなメッセージが配信されるようにもなっています。「ビタミン摂取せよ」「排卵日です」などなど。将来的には「カップルで素敵なディナーに行きましょう」といった軽やかな(おせっかいな)メッセージも出す計画とのこと。
なお、Glowでは、上述の「基本データ」だけでなく、性交渉を行った日、オーガズムの有無など、多角的なデータ(!)を記録でき、そうしたユーザデータを匿名化して収集。「どうしたら妊娠しやすいのか」という情報の精度を、現在の医学でわかっている以上に高めて行く、という野望を持っています
しかし、今のところ、目玉は「不妊治療保険」的なGlow Firstというサービス。Glowアプリの利用は無料でできますが、Glow Firstは有料で、月々50ドルの会費を支払い、妊娠したらその時点で終了、10ヵ月たっても妊娠しなかったカップルはその時点で全員から集まった会費を分け合う、という「不妊治療の互助会」的サービスです。
アメリカの不妊治療は非常に高価で、体外受精ともなれば1回当たり1万~4万ドル(100万~400万円)もするのにもかかわらず、成功率は全年齢層平均で3割未満しかないため、何度もトライする人も多く、痛い出費です。Glow Firstはそうした人たちのニーズを突いたサービスと言えましょう。Glow以外にも妊娠のための記録アプリは多数ありますが、Glow Firstを取り入れたことでGlowは他とは一線を画した差別化を実現しました。結果、8月にローンチしたばかりにもかかわらず、600万ドルの増資に成功しています。
ただ、匿名とはいえセンシティブな情報を吸い上げられるアプリでもあり、どれくらい市場で受け入れられるのか、まだまだ未知数。ちなみに、「子供をはぐくむアプリ」だから「育てる」という意味のグロウなのね、と思った方もいるかもしれませんが、それはgrow。glowは「輝く」という意味なのであります。